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小林武史 × 佐藤可士和
2004年、Bank Bandの記念すべきファーストアルバム『沿志奏逢』のジャケットをデザインしたのが、今やあらゆるジャンルで「デザイン」を仕事にする、佐藤可士和さんだった。
『沿志奏逢』のキュウリイラストはどこから生まれたのか。
この5年間で変わったこと、変わらないこと、二人の対話が始まったーー。
updata:2009.10.08
第7回 クリエイティブ・シンキングを伝えたい
佐藤 さっき話した、南仏のイザベラという女性がやっているところは、綺麗な農場というわけではないんですね。かなり素朴で粗い感じもあるんだけれど、粗いながらにハーブとかも自生している。
朝は僕がヴェルヴェーヌを摘んできて、お湯をジャーッて淹れて、ハーブティにするんですけれど、旨いんですよ。鶏がポンッと生んだばかりの卵をそのまま食べたりとか。今年2歳半になった子どもも連れて行ったんだけれど、ブルーベリーとか木いちごとかがなっているものをそのままパクパク食べたりとか。そんなことや羊に草をあげたりしているだけなんだけれど、一日がすぐにたっちゃうの。
そこを知ったのは偶然で。たまたまニースで、一つ星のレストランをやっている松嶋啓介というシェフがいてーー。
小林 神宮前に、レストランがあるよね。
佐藤 そうそう。松嶋君が友達で、その宿を紹介されたの。彼がそこの野菜を使ったりしているんですよ。
それで松嶋君と奥さんとお子さんが二日目に来てくれて、バーベキューしたり。
日本というか、「東京にいたら」なのかもしれないけれど、バーベキューくらいはやるけれど、鶏の声と共に起きて、夜になったら寝て、そのへんにあるものをちぎって食べるという、シンプルなことってあまりないじゃない。それが面白いな、と思った。
夜、テントで寝ていたら、ネコが乗っかってきて驚いたりさ。僕、野獣に襲われたのかと思って「ウワーッ」とか言って(笑)。なかなかうまく言えないんだけれど、それがダサくはないんですよ。格好いいんですよね、結構。
イザベラはニューヒッピーというのかな、僕たちがいるあいだも、取材も来ているし、近所の小学校の子ども達の自然体験のコースになっていたり。見学者も結構絶えないんですよ。自然のままなんだけど、そのことが割と先端的なんだろうな、と思ったりして。
小林 自然の循環のエネルギーは、風が吹いて、石ころがころがって、みたいなものであっても、目を覚ましてくれるような感覚があるよね。僕は鎌倉にスペースを持っているんだけれど、そこはツリーハウスのようなつくりになっていてね、すごいけどね。風が吹き抜けるだけでも自然のエネルギーを感じる。
仮説をたてるということ
佐藤 整理整頓をやりきるなんて、完全にできるものじゃない。でも「できない」ことを無理矢理やることで、ある仮説がたてられるんじゃないでしょうか。整理整頓は大胆な仮説をたてることに、ちょっと近い。
やってみると、必ず歪みはあるんだけれど、仮説が立つから面白かったりするわけですよ。そこに、何か不具合が生じるとしても、仮説が美しかったりすると、人をドライブさせる力はあったりする。
小林 それは僕がいう「瑣末」と同質な気もするね。
最後に、これからの日本が良くなっていくために、どういうことが必要だと思う?
佐藤 もっと多様な考え方ができる、ということじゃないでしょうか。
そのためにはクリエイティブ・シンキング、視点を転換できるようになることが必要だと思う。 小林さんや僕はクリエイターだから、運動神経的にクリエイティブ・シンキングをしているけれど、多くの人にとっても凄く重要なんだろうということを改めて再認識しているんです。
もちろん僕らはトレーニングもしているとは思うんだけれど、もっと多くの人にも、クリエイティブ・シンキングのような考えを提唱していったほうがいいと思うんですよ。資本主義の文脈の中だけ、とか垂直にしか考えられていないから、いろいろ抜け出せないところがあるんじゃないかな。
小林 つまり、俯瞰して何かを考えるということ?
佐藤 最近、よく言われている考えかたなんだけれど、ロジカル・シンキングやラテラル・シンキング(水平思考)をもっと立体的に、組み合わせて考えるのがクリエイティブ・シンキングだと思うんです。でも小学校や中学校でもそういう授業ってないじゃないですか。
今、明治学院大学で客員教授をしているんだけど、実験のような授業をしていて、ちょっと面白いんですよ。これまでの大学の授業ではあまり例のない、クリエイティブ・シンキングのやり方を実践で学ぶような授業で、僕の仕事を手伝うような感じなんです。
最初、「授業をやってほしい」と言われたときに、「自分が大学生に教えることなんてあるのか?」と思ったんだけれど。「可士和さんにしかできない授業をやってくれればいい」と言われたので、だったらブランディング・プロジェクトをクリエイティブディレクターとしてやっているから、そのことをやろう、と思って。
そもそも明治学院大学と自分は縁もゆかりもないのに、広告批評編集長の天野祐吉さんから紹介されて、ブランディングプロジェクトに関わることになったので、「外から来た自分が一所懸命、やっているんだから、そもそも明学生がもっと考えていけばいいんだ」と思って。
「君たちの学校でしょ、それをどうしたらよくなるのかを考えるっていうことを授業にする」と言って、チームに分かれてワークショップをしたり、プレゼンさせたりするんですけれど、すごく成長するんですよ(笑)。
何もできなかった子どもが立てるようになるくらい。「人間って、きっかけを与えれば成長できるんだな」と思って、結構、感動するんです。
小林 それはグループで考えさせるってことなの?
佐藤 そうですね。
6人くらいのチームがそれが5~6チームある、40人くらいのクラスですね。去年と今年でテーマも変えています。ほとんどの大学で今はオープンキャンパスというイベントを定期的にやっています。大学も少子化の時代だから、僕らのころと違ってPRというか、人を集めるのにすごく重要なイベントなんですよ。
僕がブランディングをする前と後では、オープンキャンパスの予算はおなじなのに、ちょっと施策を変えただけで、800人訪問者が4000人くらい来るようになって。やり方によって、すごい効果があるんですよ。
小林 ああ、人はちょっとしたことで変わるんだよね。
佐藤 その方法を、翌年は学生に考えさせたの。「明学のオープンキャンパスにどうやったら高校生が来てくれるのか、ということをみんなで考えよう」と言って。考えさせて、プレゼンさせて、実際に使えそうなアイディアは実施したんです。そこまで一貫してやらせたのね。
そうしたら授業が終わったあとも残って、ずっと一所懸命みんなやっていて。
明治学院大学ってもうすぐ150周年で、私学だと慶応の次に古いんですよ。歴史があって教育理念も素晴しいんだけれど、ほとんど知られていない。 そこで150周年を機に、「ヘボン式ローマ字」のヘボン博士が創設した、キリスト教の理念で作られた学校だから、「Do For Others(他者への貢献)」という理念をもっと社会にコミュニケーションするような施策を考えよう、と言ったんです。「Do For Othersをデザインせよ」という授業として。
大学の宗教部とか、広報とか各部署と組んで、地域連携室と大学の職員も入ってもらって実際に考えさせるというのをやってみた。最初は、ただそれをボンと投げると、突然集められた6人だから、ちょっと喧嘩っぽくなったりして、その過程が面白いんですよ。何をどう考えていいのかもわからなくて、すごく混乱するの。
それをちょっとずつ軌道修正していって、まずは課題を見つけて、とか。まずはいかに人とコミュニケーションしてひとつの考え方をまとめていくかという、グループワークの基礎的なトレーニング。社会に出たら、どの職業についてもそのスキルは必要だから。
小林 そういう、コミュニケーションを学ぶというのは案外なかったんだろうね。
佐藤 そうなんですよね。あとは企画を考えて、プレゼンテーションして人にいいと思われるようにするとか。考えを論理だてて人に説明する、というのも全部スキルになるから。超実践的な授業としてやっているんです。最後に公開プレゼンテーションをするときは、他の学生もたくさん見に来るところで、学長先生にも出席してもらって、チームごとにプレゼンするんです。
そのために徹夜で準備したりとか、リハーサルもちゃんとしようって言って。みんなスーツを着て来たりしてさ。それは学生たちにとっては、すごい経験だったと思うんですよ。半期の授業なんだけれど、学園祭に近いような。そういうクリエイティブ・シンキングを教える場っていうのはなかなかないんですよね。社会に出ちゃうと、働きながらそういうことを学んだりするんだと思うけれど。
だから教えていて、僕自身も意外に熱い思いになっちゃった(笑)。
小林 5年ぶりにゆっくり話したけれど、変わっているところもいないところも含めて、「佐藤可士和という運動体なんだな」と思ったよ。
今日はありがとう。
また一緒に何かやろうよ。
佐藤可士和
アートディレクター/クリエイティブディレクター
1965年東京生まれ。博報堂を経て「サムライ」設立。SMAPのアートワーク、NTT docomo「N702iD/N-07A」のプロダクトデザイン、ユニクロ、楽天グループのクリエイティブディレクション、国立新美術館のVIとサイン計画等、進化する視点と強力なビジュアル開発力によるトータルなクリエイションは多方面より高い評価を得ている。東京ADCグランプリ、毎日デザイン賞ほか受賞多数。
明治学院大学、多摩美術大学客員教授。著書に『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞出版社)
http://kashiwasato.com
(撮影/今津聡子 構成/エコレゾ ウェブ編集部)