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小林武史 × 櫻井和寿

小林武史 × 櫻井和寿

ついに開催が決定したap bank fes'10。しかし、ここに辿り着くまでには”休止”までも想定した話し合いが重ねられていたという。
6年目を迎えたこのフェスが重ねてきた足跡、そして踏み出す新たな第一歩とは――。

updata:2010.01.19

ap bank fes'10開催を決定するまでの道のり

小林武史 × 櫻井和寿

―― ようやく開催が決まりました。例年と比べると発表までに少し時間がかかったかなと思うのですが。

小林 結構、長い道のりだったんだよね。

櫻井 そうですね。

小林 そのへんもここで全部ぶっちゃけてしまった方がいいかなと思っていて。正直、僕も櫻井君も「今回のフェスはやらなくてもいいのではないか?」というところまで話をしていたんですよ。

―― それはどうしてだったんですか?

小林 それには色々な理由があるんだけれど。まずap bank fesを5年間やってみてひとつの<区切り>のようなものを感じていたということがあって。ap bank自体をつくってからはもう7、8年になると思うんですが、あの頃、僕たちのようなミュージシャンが環境に関心を持ったり、それについて活動したりするのは<カウンター>になりえたと思うんです。けど、今や環境問題は十分に多数派になったというか。結構、落ちついた感のある社会問題になってきているなという感じもあって。
もちろん"エコレゾ"という概念や、つま恋という場所は、特別なものになってきているなという感じはあったんです。ただ、もっと広い視野でみた時に、一方にはこのあいだの対談でも話した「LOVE CHECK」という新しい構想が出てきていて。今年に関しては、夏のap bank fesはやらないで年末あたりにその「LOVE CHECK」をテーマとした別のイベントをやる、というような形で、なにか新しい展開を打ち出していった方がいいのではないか、ということを話し合っていたというのがありました。
そうだったよね、櫻井君?
櫻井 ええ、そうですね。
それと、僕の中では、前回のap bank fesで矢沢永吉さんに出て頂いたということがあって......。
まず最初に、2004年に行ったBank Bandの初ライブ「B.G.M」というap bank fesの前身であるすごく小さいイベントでは、9・11があったことで、アメリカ的なものの考え方ではなくて、もっと身近で確実に自分たちの足元にあるものを見直したいという意識が芽生えて。
そこで第一回の「B.G.M」で演奏するカヴァー曲を考えたときに、中島みゆきさんであったり、浜田省吾さんであったりという、僕のルーツでもあり日本の音楽シーンを支えてきた人たちの音楽を取り上げて、次の世代に繋げていきたいと思ったんです。その想いをap bank fesの中でも繋げてやってきて。それで去年、矢沢さんと演奏をしたときに、何かをやり遂げた感があったんです。

小林 ちょっと僕から補足すると、櫻井君が言った「アメリカ的なものの考え方」というのは、例えばグローバリズムのような、価値観を世界的に統一していってしまうような感じだと思うんですね。
そういう考え方が広まる中で、イラク問題であったり、日本が自衛隊を派遣するのはどうなんだ? というようなことが世界のまっただなかで起こっていた。
そんな世界情勢の中で、僕たちはフェスをやり続けながら、自分たちの足元にある素晴らしいものを掘り下げていこうという気持ちだったんだと思います。
僕らが中島みゆきさんとか浜田省吾さんの曲をカヴァーしていったというのは、その楽曲の価値を再確認するような作業だったと思うし、それを次の世代に繋げていくというような想いがありました。
そうやってBank Bandもできたし、『沿志奏逢』というアルバムのコンセプトも生まれた。このフェスは、そんなコンセプトを掲げながら5年間やってきた。もちろんいろんなアーティストに出て頂いたけれど、浜田さんに始まり、桑田(佳祐)さんや、ASKAさんなど、大御所というかヘッドライナーにずいぶんこだわってきたフェスでもあるんですよね。そして去年の矢沢さんで、昔からやってこられた大御所の方々との、ある意味、共振共鳴の旅が、結構ピークまできた、ということだったと思います。

若いアーティストとの間に循環が生まれるということ

小林武史 × 櫻井和寿

櫻井 小林さんはこのエコレゾウェブでも、「さくらや」が閉店して......という話をしてたんでしたっけ?

小林 うん、ブログで書いたことがある。

櫻井 つまり「資本を持ったものが勝ち続ける」ということは、ある意味日本の音楽シーンを見ていても感じるというか。大御所の人たちが音楽をやり続けている一方で、新しい音楽をやっているけれどプロモーションの力がないからうまくいかないというような、いい音楽が残りづらい状況もあるなと思っていて。
音楽は音楽シーンのこと、世の中で起こっていることは起こっていること、というふうに別のものとして考えにくいんですよね。小林さんの言っていたように、「資本を持ったものが勝ち続ける」という、世の中で起きていることと音楽シーンには似ているところがあると思っていて。そういう意味ではMr.Childrenもその恩恵を受けているとは思っているんですけどね。
だからこそ、去年のフェスが終わって「じゃあ次はなにをするか、また大御所の人をヘッドライナーとして呼ぶのか」と考えたときに、本当にこのイベントをやり続けることに、ちょっとモチベーションが上がらなくて。
でも、今Bank Bandでレコーディングを始めていて、そこで、ラジオで聴いて大好きになったフジファブリックの『若者のすべて』という曲を演奏したときに、「すごくいいものができた」という実感があったんです。
そもそも『沿志奏逢』のために自分が選曲をするときに、以前までは大御所で自分たちよりも先に音楽を切り開いた方たちの楽曲を選ぶことが多かったんだけれど、今回はMr.Childrenよりも新しい世代のアーティストたちの楽曲をピックアップしていて。それがどうしてかは自分でも分からなかったんだけど、いまこれをやったらきっと新鮮なんだろうなという直感だけはあって。
でもBank Bandで演奏していて、スタジオで「さくらや」の閉店についての話を小林さんから聞いたときに「あ、全部繋がったな」と思った。それで、今年のap bank fesにもっと若手のバンドとかを招いて一緒にやれたらいいな、と思ったときに、自分の中でモチベーションが上がってきたという感じです。

小林 今回のフェスの話は何回も何回も「どうする?」と話し合ってきた。それと同時に、さっきも言っていた「今年はap bank fesをやめて年末にLOVE CHECKとしてのイベントをやるのもいいね」という話もしていて。ちょうど昨年末、「365日」をMr.Childrenのドームツアーで演っていたときに、「このくらいの時期にLOVE CHECKのイベントっていうのはいいな」なんて考えていた。LOVE CHECKの方が、より広い視野で捉えられるのではないか、例えば環境だけでなく貧困や格差、老人問題なども捉えられるね、という話までしていたんです。
そんな中、それらのことの確認作業のようにBank Bandのレコーディングをやっていて。実際に若手のアーティストの曲を演奏してみたら、世代を超えた循環のようなものを感じたんです。あと、何よりも、このフジファブリックの「若者のすべて」に"花火"のことが出てくるんですけれど、これはまさに今年のフェスでやるべき曲だ!と思ったんですよ。それでレコーディング中に、「やっぱりフェスもやろうよ」ということを僕の方から言いました。
若手アーティスト、特にバンド・アーティストとのレゾナンスが出来ていくということは、すごくLOVE CHECK的なテーマとしても捉えられるとも思ったんですよね。
今の音楽シーンの冷え込みというのは、本当に、社会問題と切り離せる問題ではないと思っているんで。

“LOVE CHECK”について

小林 LOVE CHECKって、決して具体的に分かりやすい方向にいく事柄ではないんだな、というふうに思っているんですよ。言ってしまえば、「愛」みたいなことを扱う次元だと思うから。
"エコレゾ"は例えるならば「広場」。そこに人が集まって、一人ひとりは違う感性を持っているんだけれど、みんなの "未来を想う気持ち"を生き物としてどこかで通じ合わせていて、共鳴したり交換したりする場だと思っている。その、いちばん特別な場所がつま恋でありap bank fesであって。
でも、"LOVE CHECK"はもっと大きな概念で、例えるならば「宇宙」みたいなものを感じている。まだガス状の星雲やブラックホールみたいに、正体が見えないんだけれどものすごく質量があって吸引する力があるようなものでね。流れ星が飛んでいったり。そういう、どんな次元のものであってもそこにはあり得るし生まれてくる。そのような場だなという思いがあるんですよ。

LOVE CHECKというのは、決して「これが正しい」ということを示すつもりではないんです。こうやっていけたらいいんじゃない? ということは出てきうるけれど。
若い人が恋愛をして、でも自分の好きな人を友達に横取りされてしまって胸が張り裂けそうになって、というような出来事と、中国、アメリカ、日本の国家間で日本だけが蚊帳の外になっちゃう、という社会的な出来事。これらもかけ離れているようで実はよく似ていたりしてね。そんなこともすべて、同じようにLOVE CHECKの現場なんじゃないかな、と思えるわけです。
小林武史 × 櫻井和寿

櫻井 最近、世の中のみんながすごく個人主義になっているように感じるんです。でもそれってものすごく最近の話で、日本も少し前まではもっと「日本という国の国民の一人」というか、共同体という意識があったと思う。それは「共同体でありたい」という本能もどこかにあってのことだと思うんですけど。
日本という国が、共同体としての結束をなくしたあとにも、「家族」という共同体はあった。今はその家族という共同体すらもだんだんあやふやになって個人主義に向かっているんだけれど、共同体の一人でありたいという意識は変わらずあって......。
そこが機能したのが「エコ」なんじゃないかな、と。日常生活の中で少し工夫して「地球のために」と行動したりすることが、「地球」という共同体の一部である、というフワーンとしたイメージを、とても明確なものにしたんじゃないかと思っていて。
「愛」もこれと同じようなものじゃないかと思うんです。「愛ってなんなんだろう」ということを説明するのは難しいけれど、そういうあやふやな何かをまとめている、本当ならば実態がないかもしれないけれど人と人を繋げていくイメージのようなものを「愛」とか言うんじゃないかな、と。

小林 人間も生き物なので、いつでも簡単に死ねて、もしかして生きてることにすらなんの意味もない、とても刹那的なものだということを、時々感じたりするんですけど。それは僕にとって大事な、ある意味リアルな感覚だし、いい意味で刺激であるんですが。その中でも人間は種の保存や生存競争ということから、ある部分、一歩抜け出して、あるベクトルを持って進もうとしているという気がするんですよね。それを進化といっていいのかわからないけれど、ある方向に向かっているな、と。なんだか宗教的な話になってしまうけれど(笑)。
櫻井 小林さんは先日、ハイチ救済イベント(「ON A NIGHT LIKE THIS for HAITI」)をやっていましたよね。
この日本で生活している人々が、ニュースでハイチの現状を知ったときに、ハイチの人のところまで旅していって何か役に立てることはあるだろうか......というイメージを抱いたとしたら、そのイメージを具体的な行動に繋げるというのが、僕らのやっていることのような気がしていて。良いこと、悪いこと、という以前に、そのお客さんのイメージを具体化するサービス業のようなものであると思うんです。
みんなどこかで、自分が共同体の一員として機能していると思いたいし、どこかでそうあるべきだと信じているし、そういう繋がりやイメージをより具体的なものにしたいという気持ちを持っている。それができるだけよい方向で実現していくプロジェクトでありたい、そいういう取り組みをしていきたいな、と思っているんです。

小林 僕にとって、環境というものに取り組んできて教えられたことは、ほんとに「すべてはつながっているな」ということでもあったんですね。もっと言うと因果関係みたいなもので、善も悪も、所変わって立場が変われば裏返しになってしまうこともあるからね。いいことだけってことはそうそうない、完全な善というものはないと思っているんですね。
小林武史 × 櫻井和寿

例えば、僕らはいよいよ農業をap bankではじめようとしていて、先日その会社を設立しました。名前を「株式会社 耕す」というんですが。ちなみに、「耕す」という命名は櫻井さんでございます(笑)。寿司屋で相談したときに「"耕す"はどうっすか?」って言われて「いいね!」となったんだけれど、真面目に考えると、会社名なのに名詞じゃなくて動詞なんだ、っていうね(笑)。文章にしてみると「株式会社 耕す」のあとにスペースを入れないとおかしくなっちゃうんだよね。仕様上、今までにないパターンです。 話はそれましたが、そこでも日々、いろんなことに直面しています。
農薬は使わない方がいいと思っていても、それをバーっと撒いてしまえば生産性という側面ではすごく楽になる。除草剤などを含む農薬を撒いて、ある意味、生態系を分断してしまって、そこに石油で出来ている化学肥料をまいて、そこでリンなどを取り込んで野菜の種などが成長していく。一方で有機というのは生態系を重んじていくわけです。だけどそれでいよいよ収穫時期となった頃に、野菜にとっての新しい悪い虫なんかがついてしまって虫食いにあったりすると、天を仰いで、きっと呪いたくなったりすると思うんですよね。だけどその時に試されるというか、LOVE CHECKといいますか、そこでその虫を全部断ってしまって農薬を撒きたくなるとして、それが体にどういう影響をもたらすのか、ということを考えたときに、じゃあどうすればいいのかということが出てくる。
今までは「まあ、いいじゃん」で済ませられていたことにも、もう一歩突っ込んで考えて行動していくことが大事だなと、僕は思っていて。
「なにが正しい」とか「善意とは」とか、大きなことを考えて悩んでしまうだけではなくて、まずは実質的なことにおいてなにか行動していくということがなんだかんだいって必要なんだと、社会がそうなってきているんじゃないかと思うんです。

そういうことも含めて、僕らのLOVE CHECKとしての活動が、面白いコミュニケーションの場になっていくことも期待しているんです。そして多発的に、多元的に、いろんなところでLOVE CHECK的なものが起こって、影響しあってやっていきたいなと思っています。それが単に表層的なファッションだけでは終わらないように、一過性なものになってしまわないように、社会的なことに繋げていくということをしていきたい。その血液になるのはやっぱりお金だと思うし。そのために、そういうことが成立する企画をこれからもやっていきたいなと思っているんです。

新しい「ap bank fes」に

小林 そういうわけで、そんないろいろな経緯があって、今年のap bank fesでは若手アーティストとのレゾナンスという新しいテーマが生まれたわけだけれども。それについて櫻井君に話したら、しばらく考えてあるアイデアを出したんです。それが、まだ大決定ではないんだけど「ステージを2つ作れないか」ということ。
つまり、一方にはBank Bandのセットがずっとあってグレートアーティストの方々と共に演奏をする、それが終わったら、もうひとつのステージでバンドの演奏が始まる。そしてバンドが終わったら、またBank Bandでの演奏をはじめる......みたいなことはどうですか? という話だったよね。

櫻井 はい。

小林 現在、スタッフも含めて、2ステージ実現に向けての構想真っ最中です。
特に櫻井君に関してはMr.Childrenというバンドのヴォーカリストでもあるわけだから、バンドに対しての想いというものがすごく強いんだと思う。 だからこそ、今回の2ステージ案は、やるべきタイミングが来たなという感じだし、でも、だからといって、(ミスチルの)田原が歌が響いているフェスという言い方をしていたことがあったと思うんだけど、そういうことも忘れないフェスにしたいと思っています。
それに、ap bank fesをつま恋でやるのって大げさに言うと、すごく気持ちのよい、キレイな気持ちになるというか。「聖地」じゃないけれど、他の場所とちょっと違う、特別な場所になっているという想いも僕の中ではあったので、LOVE CHECKという考えがあっても、エコレゾの思いはここでは生きてるというか。いずれにしても今年は新しいap bank fesを見てもらえると思っています。
(撮影/薮田修身 構成/編集部)

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