第6回 佐藤可士和、Mr. Childrenを「整理する」
小林 可士和君にMr. Childrenの『シフクノオト』のADをやってもらったときに、「Mr. Children史上最高のアーティスト写真」ができたんだよね。
可士和君が良かったのは、「ポラロイドでみんな適当に撮ってきてほしい」と提案したこと。
佐藤 そうそう、「自分たちでやってきてください」って言って(笑)。
小林 Mr. Childrenのいいアーティスト写真を撮るとき、「ミスチルを格好よく撮ろう」というのは脈々とあってね。可士和君は「今さらそれをやってもダメだろう」と、整理整頓の二者択一の中で、「格好いい写真を撮っても、勝てそうにもない」と考えたんだと思う。
「じゃあ何だろう」となったときに、Mr. Childrenはバンドで、その良さは4人とも気取ったビジュアル系みたいなものではない、という本質を見たんだよね。「4人だけである必要もないから、スタッフも混じって構わないので撮ってきてください」っていう。それはデザイナーとしては最も楽じゃない。「その中から、レイアウトで僕が選びますから」っていう。ちゃっかりしているよね(笑)。
でも、結果は見事だったよ。「なるほど」とあいつらも思って、スタッフと撮ってきてね。その選びかたも、大体スタッフにやらせたりしてたんだよ。
佐藤 僕は、何もやってない(笑)。やってないけど、できちゃった。
小林 それが、佐藤可士和の整理整頓なんだと思った。「なんだろう」って、走って行って、一個のやりかたを見つけたわけだからね。その真似を今さらできないな、という。そのときのアーティスト写真は本当に評判が良かった。
佐藤 良い写真でしたよね。
小林 4人のいいバランスが良くでていたんだよ。とはいえ、任せてしまうことに不安はなかったの?
佐藤 ないない。それは顔の角度がどう、とかいう問題じゃないですから。「Mr.Childrenだからやっているんだよ」というのもありますしね。
たとえば新人バンドだったら、同じことは無理ですよ。Mr.Childrenの桜井くんをはじめとする、みんなの関係性を理解しているから、「このメンバーにこういう場を与えれば、こういう写真を撮ってくる」と読めるわけで。
小林 Mr.Childrenがちょうど良く、「味」が出て来ているときだったと思うね。そういうタイミングもあったんだと思う。一時は、メンバー全員で空に向かって立つ、みたいなことしかできなくなっちゃって(笑)。つまり、可士和君の発想はカウンターですよ。
佐藤 写真を選ぶのもメンバーにやってもらいましたよね。あと、ツアーパンフも、みんなに作ってもらったし(笑)。メンバーがみんなで書いたもののページ構成くらいは僕もやったんだけど。でも、相当、面白くできましたよね。
小林 パンフも、本当に評価が高かったね。
「やらないこと」を見極める
佐藤 『佐藤可士和の超整理術』を書いたときに自分で気がついたのは、エコの話にもつながるのかもしれないけれど、自分は物を作る人間なのに、ふと気がつくとやっていることは、企業に対して「それはもうやめましょう」とか「それはもう言わないほうがいい」とか、やめたり捨てたり、そぎ落としたり整理することばかりなんですよ。何故か気づくとそういうふうになっている。
その場に余計な物がない状態を作るだけで、ものすごい新しい何かが生まれたりするんですよね。
小林 それはあり得るだろうね。
佐藤 「消費」や「作る」ということに対して、違う考えかたがあるのかな、とは思っているんです。まだ自分の中で、整理術とその新しいアイデアがバチッと結びついていなくて、理論化できてはいないんですけど。
そのことは、環境問題と遠くないものというか、「持続可能な」というニュアンスに近い何かがある、と思うんです。
小林 僕も、バチッと整理されてはいないんだけれど、そういう感覚はあるよね。可士和君ならではのそういう整理方法が、「痒いところに手が届いた」から、たくさんの人に読まれているんだと思うけど。
佐藤 ともかく「大量生産、大量消費だけは違うだろう」とは、誰もが思っていますよね。そういうベースは共有できている。さらにもうひと押し、考えかたを変えると、何か違うことが生まれてくるのかな、という気がする。
違う楽しみかたとか、違う打ち出しかただったりするのかな。