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小林武史 × ナオト・インティライミ

小林武史 × ナオト・インティライミ

この十年で、“音楽”は“鑑賞対象”から“コミュニケーション・ツール”へと変化してきているのではないだろうか?
「孤独」「断絶」などが社会問題として叫ばれる中で、これからの日本のコミュニケーションはどこへ向かっていくのか――。
単身で世界数十カ国を渡り歩き、各地でさまざまな人と出会い、人種も言葉も文化も宗教も飛び越えて音楽を鳴らしてきたという類い稀なるコミュニケーション力を持つナオト・インティライミの経験をヒントに、小林武史が読み解きます。

updata:2010.07.07

第1回 コミュニケーション・ツールとしての音楽

ナオト 今日の対談、大丈夫ですかね。僕、小林さんと初めて対談するんですけど(苦笑)

小林 さぁ、どうなんだろうね(笑)。

ナオト いや、もうね、ホント恐れ多いです。

小林 なんか、ナオトが自分の弟や息子みたいにな感覚になってきてて(苦笑)。うちの事務所(に所属している)っていうのもあるんだろうけど、ナオトがいろいろやっているのを身近で見ているせいか、どんどん息子化してる(笑)。実は意外に音楽をやっているヤツって、"おまえ、いいヤツだな"とか、どう考えても絶対に嫌いになることはないっていう、絶対大丈夫!っていうのがないんですよ(笑)。

ナオト えっ、そうなんですか!?

小林 だって、やっぱり最初はちょっと警戒したりもするし。でも、ナオトは本当に周りからの評判も良くて。ま、最初は櫻井(和寿)からMr.Childrenのコーラスに一人候補がいるんだけど......っていう話があって会うことになったんだけど。

ナオト ちょうど2年前に、Mr.Childrenの「GIFT」がNHKの北京オリンピックのテーマ曲に決まったという記者発表の時にパフォーマンスをやって。それが、僕にとって初めてのMr.Childrenの舞台だったんですよね。
小林 で、会ってみたら"あ、なるほどね"って思うくらいすんなりしたヤツだった(笑)。でも、そういうヤツにありがちなのは、全く問題もないけど毒もない......、みたいな? 毒にも薬にもならないっていうのもあるじゃない? だけど、いくつかの場でナオトのパフォーマンスを見てみて、ナオトは自分のリズムとか彼独特のキレみたいなものがあるんだっていうのがわかってきた。あ、こいつはどうも普通じゃないな、と(笑)。

ナオト (笑)。

小林武史 × ナオト・インティライミ
小林 天然のように見えているけれど、周りの状況を見て、頭をフル回転させているんだろうなって思った。

ナオト 僕にとって"小林武史"という人は、自分が育ってきた(人生の中の)音楽を作ってきた方だったので、憧れの存在でした。でも、小林さんと会う前は、小林さんってすげぇ怖いんじゃないかと思ってたんですよ。

小林 よく言われる(笑)。

ナオト だから、初めて会った時に驚いたんです。小林さんは"俺に話しかけんなよオーラ"を出している人なのかと思っていたし、見かけ的に陽よりも陰の感じを出している人だと思ってた。でも、初めて会った時に、今まで僕が思っていた小林さん像が180度変りましたね。すごくよくしゃべられる方なんだなぁって思った。 "あ、こんなに笑うんだ、小林武史って"って(笑)。

小林 (笑)。俺、リハでもレコーディングでもいちばんしゃべるからね。ま、それが僕の仕事というか。まず、これからどういうふうにするかっていうのを、言葉でみんなに伝えなくちゃ始まらない。プロデューサーがしゃべらないで、どうプロデュースするんだっていう話でしょ?
ナオト 感激しましたもん。それは僕が世界を旅した時も感じたことだったんですけど、テレビでの印象とか、ステレオ・タイプなものをそのまま鵜呑みにしていたらいけないないんだなってあらためて思いましたね。やっぱり、実際に人に会って話すことで、いろんな情報を飛び越えられる。そうやってリアルなものを感じなくちゃいけないんだな、と。それからは、近くで魔法が生まれる瞬間を体感させてもらって、人間的にも音楽的にも大きくて貴重な影響を受けさせて頂いてます。小林さんが指し示す方向や言い回しから、小林さんの巧妙さ......、それは的確って言うことだと思うんですけど。俺だったら10言わないと伝わらないんじゃないかと不安になるのに、小林さんはひと言でその背景とか自分の思いの度合いとかを、そのひと言に詰め込んじゃう。小林さんの的確なコミュニケーション能力は凄いと思います。

小林 絶妙なパス・コントロールって感じ?(笑)。これは業界的な公の場でよく言う事なんだけど、今の時代って音楽を自分で選んで、自分の好きな時に聴くというレベルでは音楽が溢れているじゃない? じゃぁ10年前の音楽を振り返ってみると、そこにある種の古さはあるとしても、いろんなことがフィードバックしているという中で、デジタルの編集機......。こういうのも(小林さんが手にしたスマートフォン)編集機って言えば編集機だと思うんだけど、自分でいつでも音楽や情報を取り出せるっていう環境の中で言うと、新しい人たちにとってのアイテムとして......、音楽が好きなんです、音楽をやりたいんですっていうことだけでは、なかなか世の中に出にくい時代なんだろうとも思うんですよ。
小林武史 × ナオト・インティライミ

ナオト あまりにも情報が世の中に溢れすぎているせいで。

小林 ナオト自身も実はずいぶん手ごたえが見えにくい、得にくい感覚ってあったんじゃないかなっていう気がするんですよ。ナオトみたいにエネルギーを持っていて、人を巻き込んでいく力があっても。だから、ただ音楽だけでやろうとすると、今はちょっと世に出にくいような時代かもしれない。ナオトは実際に世界中を旅してみたり、経験して実感していったりすることで、一見遠回りのように見えても、人と繋がっていくっていうアウトプットの部分をいくつも覚えていったんだと思うんだよね。それはいみじくも、今、ガラパゴス化しているニッポン、内向きな日本人って言われている中で、ナオトみたいに外を向いて、とりあえず人や国と繋がってみようっていう人間、こういうある種、振り切れた人間が必要な感じがする。ナオトにはなんかそういう嗅覚があると思うし、余計なプロセスを必要としないで人とコミュニケーションを取れるじゃない? ギター1本持ってどこへでも行っちゃって、身ぶり手ぶりでなんでもやっちゃうっていう、いちばん日本人が苦手としているようなところから入っていける。
小林 で、旅から帰ってきて、今、ナオトはそれをJ−POPというフィールドの中でやっている。音楽だけではなんか響かないなと思った時に、ナオト自体がコミュニケーション・ツールとなって、自分自身が出会いの場となるという現象は、僕は新しいと思いました。だから、そういう思いもあって、ナオトはこれからもっと大きくなっていく......っていうか、大きくなっていけよって思っている(笑)。

ナオト 僕は、自分ができることで頑張るしかできないんですけどね。

― とはいえ、ナオトさん自身、最初からコミュニケーション能力がずば抜けて優れていたわけでもないと思うんですが。

ナオト 僕がギターを始めたきっかけって、ギターが弾けたらカラオケに行かなくてもみんなで生オケできるじゃん!って思ったからなんです。それが、ギターを持ち始めた根本だった。ギターを弾いて、みんなで集まって一歌えれば、"一緒に感"を感じられるでしょう? ただ、僕は以前、音楽で本格的な活動をやってたんだけど、その時はぜんぜん結果も出なかったし、若気の至りで自分はイケてるんだと思っていたから、今思うとToo muchな押しつけみたいなものがたくさんあったりして......。ただ送っているだけの、相手に届きづらい感じ......。こっちが受けていない感じがあって、今思うとコミュニケーションになっていない状態だったな、と。で、僕はそれから世界中を旅したんだけど、そこから帰ってきて活動を始めても、また壁にぶつかった。ただ、1年半の旅で僕が強く感じたのは、いろんなコミュニケーション・ツールがある中で、僕は音楽とスポーツっていろんなものを飛び越えられる大きなコミュニケーション・ツールだということを再確認したこと。で、そのスポーツの中でも、僕はサッカーという世界中でいちばんやっている人口が多いスポーツを通じて、いろんな人たちと出会うことができたんです。ボールひとつあれば、どこでも手軽にできちゃうサッカー。ギター1本と声さえあれば、弾いて、歌って、セッションできる音楽。人種だったり宗教だったり、いろんな情報を一気に飛び越えてしまえるのは、音楽とサッカーの持つ力なんじゃないかなと、僕は思ってるんですよ。

ナオト・インティライミ
ナオト・インティライミ

三重県生まれ、千葉県育ち。世界一周28カ国を515日間かけて一人で渡り歩きながら各地でライブ を行い、世界の音楽と文化を体感。『インティ ライミ』とは南米インカの言葉で『太陽の祭り』を意味する。ソロ活動の他、コーラス&ギターとしてMr.Childrenツアーのサポートメン バーに抜擢され、全国アリーナツアーや5大ドームツアー(全45万人動員)にも帯同するなど、その活動の幅を拡げ、飛躍的に知名度を上げている。今年4 月、UNIVERSAL MUSIC/UNIVERSAL SIGMAよりメジャーデビューシングル「カーニバる?」を、5月にセカンドシングル「タカラモノ〜この声がなくなるまで〜」を2ヶ月連続でリリース。7 月7日には、待望のファーストアルバム『Shall we travel??』をリリースされた。9月からは待望の全国ツアーの開催も決定。
http://www.nananaoto.com/

(撮影/今津聡子 取材・構成/松浦靖恵)

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