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小林武史 × ナオト・インティライミ

小林武史 × ナオト・インティライミ

この十年で、“音楽”は“鑑賞対象”から“コミュニケーション・ツール”へと変化してきているのではないだろうか?
「孤独」「断絶」などが社会問題として叫ばれる中で、これからの日本のコミュニケーションはどこへ向かっていくのか――。
単身で世界数十カ国を渡り歩き、各地でさまざまな人と出会い、人種も言葉も文化も宗教も飛び越えて音楽を鳴らしてきたという類い稀なるコミュニケーション力を持つナオト・インティライミの経験をヒントに、小林武史が読み解きます。

updata:2010.07.07

第4回 いろいろなものを飛び越える音楽の力

小林武史 × ナオト・インティライミ

小林 これは日本固有の問題だと言える部分と経済の理由で広がっちゃった世界の問題だと言える部分があると思うんだけど。そこに本当に人の思いや気持ちがついて行ききれてないっていうところで、ズレが生まれている。 たぶん、今話している、ここのところの日本はどうだろうね......なんていう話って、経済の理由で広がっちゃった部分の話だと、きっと韓国でも中国でもインドでもアメリカでも起こっていることだと思うのね。コミュニケーション・ツールが溢れかえって飽和している中で振り回されている人間たちっていう状態が。ただ、経済が破たんをしたことで見えてくるものがあるっていう利点もあると思うし、パソコンもiPhoneもiPadもスマートフォンも、持ってるけど全部やるのは面倒臭いなと思ったら、何かやめればいいわけだし。
ナオト たくさんツールがあっても、その中から選ぶのは自分自身。

小林 意外とiPadなんてアナログ感に近いものでもあるわけ。ひょいと指で触れるだけでいいとか、簡単に画面や文字を大きくできちゃうとか、ダイレクトに触れる感じとかがね。文字が大きくなるのって、お年寄りにも優しいし。拡大したテクノロジーの部分を補っているところがあるんだよね。音楽にしても、ドラムにマイク立てて、ギターをアンプから鳴らしてっていうのがロックだって言いきれないところにきてると思う。コンピューターの中にだって、過激なツールが揃っているし、でかい音で出すことも可能だし、そういうツールを使おうがロック・スピリットは存在するわけ。だから、究極を言えば、人間の命が進化しているように、何がどうなろうと、何をどうしようと、楽しめばいいじゃん! その時々で考えればいいじゃん!ってくらいの気持ちではいるんですよ。だから、きっと日本で今いちばん心配なのは、経済のせいで広がってしまった問題よりも、日本固有の問題なんじゃないかと僕は思っていて。だけど、逆にそれを日本人の固有のおもしろさだと感じている自分もいる。"日本人はこうだから大問題なんだよ"って更に内向きになるより、"こんな国、日本しかないよね"って、面白がった方がいいと思っちゃう。きっと、ナオトだって、そうなんじゃない?

ナオト ありがちな言葉かもしれないんですけど、上を向こうよって思うんです。下を向いている必要は一切ないなって。

小林 うん、ホントにそうだよね。
ナオト もしかしたら、一周りして考えてみれば、今って精神的にもお金にもモノにも豊かになってきた日本が自分だけで生きてきた時代の終焉の始まりなんじゃないか、と。また旅の話になっちゃうんですけど、タイでいい言葉に出会ったんですよ。"ダイアン スィヤヤン"っていう格言なんですけど、それは"if you get something,you lose something"っていう意味で。あなたが何かを手に入れるってことは何かを失うっていうことだっていうこの言葉に,僕は凄く感銘を受けた。僕らが豊かになったことで、人と人とのぬくもりが希薄になったかもしれない。北極の氷も溶けたかもしれない。どんな小さなことでも、何かを得た時には失ったものがある。失ったものの中に、もしかしたら本当の幸せがあるのかもしれない。でも、逆に言えば、何かを失ったときは、何かを得るチャンスになるのかもしれない。負のように思えることも、それは何かのメッセージであって、何かのきっかけになっていくんじゃないかと僕は思っていて......。あと、こういう時代だからこそ、逆に音楽が、その中でもライブという場所が大事になっていくのかなって思っています。目の前で音楽に触れる。目の前にいる人、隣にいる人の体温を感じられる。ちゃんと体感する場所としてのライブが。そうだ。この前、母校の中高生の前で歌ってきたんですよ。

小林武史 × ナオト・インティライミ
小林 おっ、中高生の前で歌ったんだ。

ナオト ええ。1600人くらいの前で。彼らってケイタイで1曲買いをしているような、おこづかいが少なくてなかなかライブにも足を運ばないような、曲は知ってるけどライブには行かないような、そんな世代だと思うんです。で、僕はその後輩たちが集まった場所ですぐ歌わないで、まずコミュニケーションを取っていて。最初のうちは、先輩とはいえ誰だこいつ的なところから始まっていた生徒たちが、コミュニケーションを取っていくうちにどんどん変っていったし、僕の音楽にものめり込んでくれたんです。で、僕のブログにもその子たちのコメントやリアクションが予想以上にいっぱい書きこまれた。

小林 きっと、きっかけを求めているんだろうね。

ナオト ええ。この子たちのような世代も、コミュニケーションを求めているんだなって思ったし、音楽やライブを通じてそれを感じることができたのは嬉しい経験でしたね。いわゆる思春期の中高生たちの勉強がうまくいかない、恋愛がうまくいかない、そんな歯がゆさやもどかしさを感じながら生きている子たちに伝わった瞬間と、世界一周の旅の中で、パレスチナのアラファト議長の前で歌った時に感じたことってなんら代わりがなくて。その瞬間......その瞬間だけは音楽がいろんなものを支配してくれた。パレスチナの戦争の、その中心人物であるアラファトさんが、僕がアカペラで「上を向いて歩こう」を歌っている時だけは、戦争のことを考えてなかったんじゃないかって思える瞬間があったんです。みんなが戦争のことを意識してなかったであろうその空間、その1曲を聴いている数分間だけは。それは音楽の力って凄いなぁって思えた出来事だった。好きな音楽を聴いているとき、好きなアーティストのライブに行っている数十分、数時間は、いろんなこと......、それはもしかしたら孤独っていうことかもしれないし、悲しみかもしれないけれど、そんな思いを一回忘れて、飛び越えて、夢中になれる、別の世界に行けるような音楽の素晴らしさを、僕はアラファトさんの前で歌った時も、中高生たちの前で歌ったときも感じた。僕は音楽の力を信じて歌っていきたいと思うし、そういう思いが今という時代に大事にしなくちゃいけないことなのかなって思います。
小林 場を作れると言う意味では、音楽ってものすごく有効だし、バイブを作っていけるし、言葉でメッセージを届けることもできるし、相当の振り幅を持っている。だからこそ、ナオトのような男の歌と笑いが全国に広がるといいなって思うよ。

ナオト えっ、僕の笑いもですか(苦笑)。

小林 (笑)。ナオトのアルバムを聞いたら、ライブで聞きたいなっていう曲ばっかりだったんだけど、そういう巻き込み感っていうか ......、一緒になって何かを体感したいっていう感覚が、これからはもっと大事になってくるんじゃないかな。とにかく、この人の何が凄いかって言うと、音楽と言う道具を使って、お客さんに対していじったりもしながら、反応していけるあの反射神経があるところ。そこが凄いんですよ。ある人が「フォークって音楽とおしゃべりがあったんですよ」って言ってたんだけど、フォークの人たちっておしゃべりがとても上手いわけ。でも、それはナオトとはちょっと違うんだよね。ナオトは、サッカーというスポーツをやっていたから、身体的に研ぎ澄まされた反応やハイブリッド感がナオトの話の中に入り込んでいる。コミュニケーションの展開の仕方にも、ね。で、それはもちろん音楽にも入り込んでいるわけ。きっとナオトはそういう独特の世界を作っていけるんじゃないかな。その当時のフォークとも何かが繋がっているのかもしれないけれど、新しい型になれる。極端に言えば、ナオトはひとりでも(音楽を)やれる強みがある。僕みたいに道具がいっぱいないとできないのとは違って(笑)。

―― まず、会って、話して、ぶつかってなんぼだろうっていうナオトさんのような人がいっぱい増えたら、何か大きなこともできるんじゃないか、と思ってしまいます。
小林 そこに音楽があったら、もっと繋がっていく人が出てくるかもね。

ナオト 俺、うっとおしいくらい熱い男ですけども(笑)。

小林 いや、それくらい押していかないと人を巻き込めないのかもしれない。今の世の中、ちょっとくらい行き過ぎているくらいの過激さがないとね。なんか、いつにない切り口で、おもしろい対談ができたんじゃない? いい試合運びができた。

ナオト いえいえ、こちらこそ楽しかったです。ふぅ~(大きなため息)。めちゃくちゃ緊張したーっ(笑)。

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ナオト・インティライミ
ナオト・インティライミ

三重県生まれ、千葉県育ち。世界一周28カ国を515日間かけて一人で渡り歩きながら各地でライブ を行い、世界の音楽と文化を体感。『インティ ライミ』とは南米インカの言葉で『太陽の祭り』を意味する。ソロ活動の他、コーラス&ギターとしてMr.Childrenツアーのサポートメン バーに抜擢され、全国アリーナツアーや5大ドームツアー(全45万人動員)にも帯同するなど、その活動の幅を拡げ、飛躍的に知名度を上げている。今年4 月、UNIVERSAL MUSIC/UNIVERSAL SIGMAよりメジャーデビューシングル「カーニバる?」を、5月にセカンドシングル「タカラモノ〜この声がなくなるまで〜」を2ヶ月連続でリリース。7 月7日には、待望のファーストアルバム『Shall we travel??』をリリースされた。9月からは待望の全国ツアーの開催も決定。
http://www.nananaoto.com/

(撮影/今津聡子 取材・構成/松浦靖恵)

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