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小林武史 × ナオト・インティライミ

小林武史 × ナオト・インティライミ

この十年で、“音楽”は“鑑賞対象”から“コミュニケーション・ツール”へと変化してきているのではないだろうか?
「孤独」「断絶」などが社会問題として叫ばれる中で、これからの日本のコミュニケーションはどこへ向かっていくのか――。
単身で世界数十カ国を渡り歩き、各地でさまざまな人と出会い、人種も言葉も文化も宗教も飛び越えて音楽を鳴らしてきたという類い稀なるコミュニケーション力を持つナオト・インティライミの経験をヒントに、小林武史が読み解きます。

updata:2010.07.07

第3回 音楽を通して人とふれあいたい

―― こんなにたくさん人と繋がることができるツールがあるのに、今の世の中には孤独を感じている人もたくさんいます。

小林 ナオトは、俺、ひとりだな......って感じることってないの?

ナオト あります。僕が痛烈に孤独を感じたのは、世界を旅していた時にヨーロッパ圏に入った瞬間で。それまで旅をしていたアラブ諸国は、ひとりで旅をしているけど、ひとりで旅をしている感覚が一切なかった地域だったんですけど、ヨーロッパへ入った途端、何かが違うんです。そこはスペインだったんですけど、スペインってヨーロッパの中では陽気な国というイメージが僕の中にはあったのに、すごい孤独を感じてしまった。それまでは道を歩いているだけで、"ハーイ、ジャパン!"なんて誰もが話しかけてきたのに、ヨーロッパに入った途端に誰も僕に話しかけてくれない。お店で買い物して、おつりをもらう時も、釣り銭が正当にちゃんと返ってくるんですよ!

小林 そりゃ、普通は正当に返ってくるもんでしょう(笑)。

ナオト いや、そうなんですけどね(笑)。 でも、その時"釣り銭、合ってんじゃねぇかよ!"って怒りましたもん(笑)。もちろん、釣り銭はちゃんと返すのが当たり前なんですけど、たとえば、ぼられたりした時に"おまえ、これ、ちげぇ~よ!"って突っ込むことで、相手が"バレたか~"ってニヤリと笑って、そこから会話が始まるっていうコミュニケーションが僕は楽しかったんです。
小林武史 × ナオト・インティライミ
ナオト でも、ヨーロッパ圏に一歩足を踏み入れた途端、誰も話しかけてくれないし、自分がそこにいようがいまいが全く関係なくて。それこそ人に全く干渉しないで生きていけるんだなっていうことを感じて、非常に孤独だった。スペインでさえこうなんだ......って、すごくショックでしたね。昔の日本って、醤油が切れちゃったから隣の家に借りに行っちゃうなんてことをやってたわけでしょう? 特に戦後すぐなんて人と人が手を繋いでなくちゃ上に上がっていけない、生きていけない時代っていうのが、日本にも少なからずあった。自分一人では生きていけないし、人と一緒に上に上がっていこう、生きて行こうっていうのが、どんどん気持ちとして少なくなってきちゃってるのかなぁって思いますね。自分のマンションの部屋の隣の部屋にどんな人が住んでいるのかわからないっていうのは、僕らは当たり前になっちゃってますけど。

小林 僕はひとりでいるのも好きだし、ひとりで音楽を聞いたり映画を見たり、ひとりの時間を作るのも好きですけど、それは孤独を感じる時間とは全く違うもので......。

ナオト ええ。自分で作る一人の時間と孤独とは全く違いますよね。

小林 何か目的を持って人とやりとりをする時、僕は幸いなことに、なぜこれをやっているのかっていう時に体を動かしているっていう作業が含まれている気がしていて。体を通すっていうところで人とコミュニケーションできているんですよ。
小林 たとえば、大沢伸一くんと一緒に(音楽を)やっている時も、人が踊っていくっていうことをイメージしてやっているし、Salyuとやった時も日本武道館で観客が全員着席している空間でSalyuがライブをやっているというというのをイマジネーションとして体の中に入れている。

ナオト 小林さんは、孤独を感じたことはあまりないんですか?

小林 若い頃NYに行った時に、確かに孤独感はあったね。まだNYに詳しくなかったっていうのもあるんだけど。その時、NYの知り合いが"明日からサンクス・ギビングだからNYはガランとしちゃうよ。俺もどこそこに行っちゃうし"なんて言って、"じゃあね~。楽しんで~"って、置き去りにされて、僕はひとりNY状態ですよ(笑)。がらーんとしたNYに俺はひとり、みたいな? ぽつーんとしかしようがない状況に、いきなりぽーんと放り投げられてしまったわけ。でも、その時のNYで感じたのは、さっきナオトが言ってた話と近い感覚かもしれない。コミュニケーションからズレてる感じ? 匂いとか感触とか、自分の手垢が付いている何かとかクセとか......、そういうものからストーンと隔離されちゃったような感覚があった。あそこの角を曲がればスーパーマーケットがあるし、そこで食料は手に入るし......っていう情報だけになった時に、自分の生命維持装置がアラームを鳴らす感じはあった。うん。その感じは覚えてる。
小林武史 × ナオト・インティライミ

――日本のコミュニケーションは、これからどうなっていくのでしょう。

小林 僕らがいる日本社会って、集団の中......、それは世界という集団、日本という集団、会社や学校や家族という集団、そういう集団の中でどううまくやっていくかっていうのが生き抜くための能力として、かつては長けていたと思うんですよ。でも、今はそれが非常に情報化されちゃってる。でもね、人間なんて、生きていくにはリスクのあるものだし、命なんてそういう側面を持っているものだと思うから、前向きに受け入れていく感じがあれば、生きるって楽しいんじゃないかっていう感覚が俺はあるんだけどね。

ナオト たくさん情報があると、実際は経験していないのに、情報を得ただけで経験したかのような感覚になってしまったり、すべてを知ったかのようにもなってしまうんだけれど。でも、アクセスできる人はまだいいのかもしれない。実は、先日のワールド・カップの「日本対デンマーク戦」の時に、僕は深夜の渋谷にいたんですけど、若者たちが大騒ぎしている渋谷のスクランブル交差点で、ホームレスのおっちゃんがひとりぽつんとスタバの前にいたんです。そのおっちゃんと群衆の対比があまりにもすごくて......。街も人も浮かれまくっている中に、誰もその存在に気づいていないようなおっちゃんがいて、まるでそこだけ違う世界なんじゃないかという錯覚に陥ったんです。
ナオト で、旅でアルゼンチンに行った時に、街が近代化して高層ビルが立ち並んでいて、国が発展している中で、ストリート・チルドレンが一気に増えたっていう異様な光景を見て衝撃を受けたことを思い出して。でね、そのスタバの前にいたおっちゃんに話しかけたんです。「どうしてココにいるのか」って聞いたら、「大阪から出てきたけど、今は職もなくて......」って答えてくれて。

小林 ずっと話してたの?

ナオト ええ。30~40分は話してましたね。で、「2、3日めし食ってなくて、腹が減ってる」って言うから、「何が食いたい?」 って聞いたら、「牛丼が食べたい」って。おぉ!ピンポイントでくるな~って(笑)。で、俺、吉野家まで走って行って、牛丼買って、おっちゃんはガーっと牛丼食って。でね、「何してるのが楽しかった?」って聞いたんです。そしたら、「働いている時」だっておっちゃんが言うんです。そのおっちゃん、22歳の時から72歳まで働いていて、今82だって言うんですよ。で、住んでいるところをつい最近追い出されたから、明日収容施設みたいなところ行くために役所に行くんだけど、今夜は泊まるところはないっていうから、「あそこに交番があるからあそこに行くんだよ」って教えてあげて......。なんかね、誰とも話す機会もなくて、お祭りみたいに盛り上がっている群衆の中で、あのおっちゃんは孤独を感じてたんだろうなって。あんなに人がたくさんいるのに、誰にも気づかれず、おっちゃんは誰にも話しかけてもらえなかった。そういう孤独っていちばん辛いんじゃないかと思いましたね。でも、もしかしたら渋谷のスクランブル交差点で大騒ぎしていた連中だって、普段はああいうきっかけがないだけで、エネルギーを持て余していているのかもしれない。普段は表に出せないけど、ワールド・カップっていう盛り上がりの中でその持て余しているエネルギーを表に出せたのかもしれないなって。世の中には孤独を感じている人がたくさんいる。でも、本当に一生孤独だけを望んで生きていたいと思う人はいないし、もっともっと人は体温やぬくもりを感じて生きていきたい生き物だと思うし。そんな中で、僕は音楽を通して、サッカーを通して人と繋がっていたいし、コミュニケーションしたい。余計なお世話と言われることもあるかもしれないけれど、孤独を愛している人なんかいないんだっていう想いを信じる気持ちで、僕は人とふれあっていきたいと常に思ってます。
ナオト・インティライミ
ナオト・インティライミ

三重県生まれ、千葉県育ち。世界一周28カ国を515日間かけて一人で渡り歩きながら各地でライブ を行い、世界の音楽と文化を体感。『インティ ライミ』とは南米インカの言葉で『太陽の祭り』を意味する。ソロ活動の他、コーラス&ギターとしてMr.Childrenツアーのサポートメン バーに抜擢され、全国アリーナツアーや5大ドームツアー(全45万人動員)にも帯同するなど、その活動の幅を拡げ、飛躍的に知名度を上げている。今年4 月、UNIVERSAL MUSIC/UNIVERSAL SIGMAよりメジャーデビューシングル「カーニバる?」を、5月にセカンドシングル「タカラモノ〜この声がなくなるまで〜」を2ヶ月連続でリリース。7 月7日には、待望のファーストアルバム『Shall we travel??』をリリースされた。9月からは待望の全国ツアーの開催も決定。
http://www.nananaoto.com/

(撮影/今津聡子 取材・構成/松浦靖恵)

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