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小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

「地球温暖化はほんとうにおこっているのか?」「正しい温暖化対策とは?」ある深夜のテレビ番組で、激論が交わされた。
異論を唱える側の主張とは?
なぜそのような議論が生まれるのだろう?放送では語りつくせなかった内容について、出演していた枝廣淳子さん、江守正多さんと、小林武史がじっくり語り合いました

updata:2009.12.28

第4回 安心とは、未来のビジョンが見えること

小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

江守 科学的論議が収まったとして、さあ、いざ対策を推進しようということになったらば、今度はその対策コストが問題になる。

枝廣 「国が温暖化対策を推進すると一世帯あたり年間数十万円負担することになる」ということを強調する人たちがいます。そういうことを言われると、「自分は払いたくない」という意見が出てきてしまうんですよね。温暖化は嫌だし、自然エネルギーは欲しい、でも、自分に負担がかかるのはいやだという人たちがまだまだたくさんいます。
そうじゃなくて、何かを変えたかったら負担がかかるよ、それを誰がどうするかを考えようね、というステージに進まなくてはね。

江守 「朝まで生テレビ」の時もそうでしたが、「環境派というのは、将来の環境を守るためなら、当面の経済などの混乱がどうなってもいいと思っている」というイメージを持たれることがあるんです。

小林 そうでしたね。電気自動車を推進したら、日本のこれまで築いてきた自動車産業はどうなるのか、なんていう例が出されていたよね。産業を守ることはもちろん考えなければいけないけれど、そのために前進するものをせき止めるというのはどうかと思ったけれど。

枝廣 他の国が進んでしまって、日本は後進国になってしまう、というだけのことだと思います。

江守 科学者も、両方の問題があることはよく分かっているんです。分かっている人もいると言うのが正しいかもしれませんが。決して、どうなってもいいとは思っていない。ただ、そこで足踏みしてはいられない状況であることも伝えなければならない。
当面の問題を考えつつ、長期的なスパンで持続可能な条件を満たしていく道を見つけること、それが今、僕らがいちばんやらなくてはいけないことだと思うんです。そこがちゃんと見えないと反発されてしまうわけですからね。
枝廣 ヨーロッパのやり方などを見ていると、物事を大きく変えなければいけない時には、ずっと前にそれを宣言しているんですね。10年先、15年先にはこうしなければならないよということを。スウェーデンが「2010年には化石燃料ゼロの国になる」って言ったのが2005年だったと思いますけど、それくらい前もって伝えてもらえば、企業もそうなるということを想定して対応することができますよね。ビジョンを先に出しているんだから、対応できるかしないかはそれぞれの責任になるわけです。日本の場合はこれまでそういうやり方をしてこなくて、「来年からこうします」などギリギリになってから言ってしまうわけです。それでは対応できないという反発があっても仕方がない。

小林 国の力をつけるという意味ではね。今あるものをどうやって守ろうとするか、ということにちょっと行き過ぎている感じがする。大切なのは、これからの可能性がある子供たちの教育をどうするかということだと思うんだよね。それは可能性に賭けるというよりも当たり前のこととして。でもね、一部の人たちの論争は、それこそさっきの「電気自動車になってしまったら日本の産業が...」という話みたいに、今見えているところに捕らわれてしまっているんですよね。
国のビジョンというと大きな話に思いがちだけれど、人間が地球で生きていくためにどういう方向性でいかないといけないのかということをちゃんと考えて、まずは自分たちからやるということから始めるものだと思う。

地球があっての、国で、僕たちでしょ?そのためにも、これから一緒に頑張っていく子供たちにどんなことを伝えるかというのは、とても重要なのではないかと。
小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

枝廣 フィンランドなどは教育が有名ですけど、国力を考えた時にそのキーポイントは子供たちだという意識がやはり強いんですよね。すごく手厚くしています。単に福祉ということではなくて、それは自分たちの国力であり、国際競争力をつけるためにという意識でやっているから。ところが、日本の今の社会では、子供は国際競争力や経済の邪魔者として扱われてしまいがち。子供がいると働けないとか、教育にお金がかかるとか、負担になるものと考えられてしまうんですね。社会のためにとか、これからの国を担う次世代の人間として子供を育てる、という発想になかなか結びつかないのです。
小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

小林 ただ単に「少子化だ」、「産めよ増やせよ」と言えばいいというものではない。国がちゃんと環境を整えてみんなが子供を産みやすい、育てやすいようにする、そして生まれた子供たちはすくすくと育って、国を発展させていく......、という循環を作っていくことが大切だと思うんです。

枝廣 今の日本の人口減を補い、止めるには、相当子供を増やさなければならない。それはもう時代的にも難しいのかもしれません。もう同じパイを保とうとはしない方がいいと思います。
スウェーデンでもある時期、少子化が進み人口減が深刻になってしまったことがあったそうなんです。スウェーデン政府は、人口が減ると国力の低下につながると焦って、人口を増やそうといろいろな対策を講じたけれどうまくいかなかった。そこでスェーデン政府は発想を転換して、「子供の数を増やすのではなく、子供の質を高めよう」と対策の方向性を変えたそうなんです。何人いるか、よりもどれだけ力を持った人がいるか、の方が大切だと、数を増やす政策から生まれた子供を大事に社会で育てるっていう政策に変えたんですね。そうしたら出生率も上がっていったそうなんです。

小林 子供を産みたくなる社会にする、ということですよね。それが真の少子化対策だと。本当にそうだと思います。

江守 その仕組は、温暖化対策の話にも少し共通するところがあると思うんですよね。 「25%削減」というような目標を掲げたときに、技術の効率改善や自然エネルギーだけでは追いつかないので、その産業構造が変わらないといけない。でも、産業構造を変えるということについて具体的なイメージが伝わらないと、今CO2をいっぱい出している業界を悪者にして、対策はそれぞれが勝手にしろという、ネガティブなものとして受け止められてしまうわけです。 そうではなくて、では電気自動車とか太陽光発電とか、そういう産業を育成していきましょう、そうすれば日本にこれくらいの国際競争力がついて、これくらいの雇用を産み出すんですよ、ということが具体的な、国家的なビジョンとして示されれば、それをみんなが信じることができればそちらの方向に向かっていくことができると思うんです。
枝廣 産業構造というのは自然に変わっていくものだと思うんです。でも国の対策などで取り組もうとするときに、その変化によって職を失うとか努力を強いられる人が、マイナスの面を大きく訴えてしまうんですね。自然エネルギーや省エネの技術に切り替えることで、なくなる産業もあるけれど、増える産業ももちろんある。そこで儲かる人もいるし、雇用が増えることもあるのですが、なかなかそこが見えないので反発ばかりが目立ってしまう。

江守 2050年までにCO2を70%〜80%削減するために、何の技術をどれくらい導入したら、社会や産業をどのように変えたら実現できるかということを研究しているグループが我々の研究所にもあるんです。その時にまさに、産業構造の変化を仮定するんですけど、実はそこがまだ我々のグループの中でも甘いと言われているんです。「日本は将来これで食っていくんだ」という、もっと具体的なビジョンを立てなければいけない。それはとても難しいことなのですが。

枝廣 自動車のことだけ言うけど、今のガソリン自動車ってすごく裾野が広い産業ですよね。日本人の雇用者の12.5人に1人が自動車関連産業だと言われているくらいです。今のガソリン自動車って部品が三万点くらいあるそうです。それが電気自動車に変わると、部品が少ないので裾野が狭くなってしまう。だから自動車だけを考えると、雇用は減ってしまうと思います。
小林 それは先日の「朝まで生テレビ」のなかでも出てきていた話ですね。科学者は世の中の混乱のことを考えていない、と。

枝廣 でも世界の流れが、ガソリン車から電気自動車に移っていけば、日本だけがガソリン自動車にこだわっていても結局その産業を守りきることはできないですからね。
聞いた話ですけど、アメリカは自然エネルギーの中でも風力に力を入れているそうなんです。もちろん太陽光発電も進めていますけど、特に、風力に重きを置いている。それはなぜかというと、風力発電は太陽光発電に比べると必要な部品がずっと多くて、産業化したときにずっと雇用や産業の裾野が広がるらしいのです。アメリカもヨーロッパもグリーンニューディールとか環境政策を掲げるときに、まず雇用のことを考えているんですよね。日本ももっとそうでなければいけないと思うんです。
枝廣 淳子(えだひろ じゅんこ)
枝廣 淳子(えだひろ じゅんこ)

東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。2年間の米国生活をきっかけに29 歳から英語の勉強を始め、同時通訳者となる。米国のアル・ゴア元副大統領の著書「不都合な真実」の翻訳を手掛けるなど、現在は環境ジャーナリスト・翻訳者として幅広く活躍中。2003年、(有)イーズを設立。「自分を変えられる人は、社会も変えられる」をモットーに、自分自身を変え、さらに組織、地域や社会を変えていく「変化の担い手」を育てるため、各種講演、セミナーを開催中。福田・麻生内閣では「地球温暖化問題に関する懇談会」メンバーを務める。主な著書に『朝2時起きで、なんでもできる!』『地球とわたしをゆるめる暮らし』、訳書に『不都合な真実』ほか多数。
http://www.es-inc.jp
http://www.change-agent.jp
http://www.japanfs.org/ja

江守 正多(えもり せいた)
江守 正多(えもり せいた)

1970 年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に入所。「地球シミュレータ」の現場で研究を行うために2001年に地球フロンティア研究システムへ出向し、2004年に復職した後、2006年より現職に就く。東京大学気候システム研究センター客員准教授を兼務。著書に「地球温暖化の予測は『正しい』か?−不確かな未来に科学が挑む」、共著書に「気候大異変地球シミュレータの警告」等がある。IPCCにも貢献した日本の温暖化予測研究チームで活躍する、若きリーダー。
http://www.cger.nies.go.jp/ja/people/emori/

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