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小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

「地球温暖化はほんとうにおこっているのか?」「正しい温暖化対策とは?」ある深夜のテレビ番組で、激論が交わされた。
異論を唱える側の主張とは?
なぜそのような議論が生まれるのだろう?放送では語りつくせなかった内容について、出演していた枝廣淳子さん、江守正多さんと、小林武史がじっくり語り合いました

updata:2009.12.28

第2回 何を信じるか? どう受け取るか?

小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子
江守 実は『朝まで生テレビ』(*1)のなかでは「地球温暖化は本当におきてはいないのではないか」という意見だった武田 邦彦さんとも、あれより以前に別の場所で枝廣さんと僕とで話し合いをしているのですが、そこではもう少し、お互いの意見が寄りあっているんですよ。

(*1):2009年8月29日、TV番組『朝まで生テレビ』の中で、「ド~する?!地球温暖化!」と題して激論が交わされた。この中で、「地球温暖化は本当に起きているのか」「環境問題への取り組み方は間違えているのではないか」という、枝廣さん、江守さんが提唱している取り組みへの反論とも言えるべき意見もぶつけられていた)

枝廣 地球の温度が上がっていること、その原因として、その割合はともかくとして人間の活動から生み出されているCO2が影響しているということは、武田先生も認めていらっしゃいます。ただ、それに対して私たちは「なんとかするべきだ」という意見だし、武田先生は「何もしなくていい」という意見を持っている。「小手先でCO2を減らさなくても、人類は革新的にきっとブレイクスルーしてうまくいくに違いない」と。
江守 そうですね。それに、日本が温暖化の被害を受けるのは遅いから、という考えもあるのかもしれない。

小林 遅いんですか?

江守 比較的、ということですが。発展途上国などに比べるとそんなに大規模な被害というのは、すぐには受けないと思います。これはあくまで予想なのですが。

小林 それは、地理的にということ?

江守 地理的な理由と、あとは社会対応能力ですね。ハードとソフトの両面で考えて、日本はまだ深刻な被害を受ける前に対応できるのではないか。だから、しばらくは何もしなくていいよ、と楽観している人々もいるということです。まずは世界の他のところが取り組むのを見ていて、日本はもう少し大変になってから行動すればいいのでは?という意見です。

小林 なるほどね。 科学というものは、自分が行った実験結果や検証に基づく意見だったら、発言することを許されますよね。もちろんそれは言論の自由であると思うし、そのなかには、本当に正しい意見も、はじめは違うと言われながら実は正しかった意見もあると思います。
小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

でも、結果的に間違えていたというものもたくさんあるわけですよね。それが悪いというわけではなくて、ただ、僕らのようにその結果だけを聞く大半の人々にとっては、その意見を信じるか、信じないか、という判断はとても難しいことだと思う。国の後押しの仕方や、メディアの取り上げ方ひとつで、結果的に操作されてしまうという恐れだってある。その、いろいろな意見が野放しになっている状態の怖さというものを、僕は感じているんです。
枝廣 ちょうど先週、アル・ゴアさんの「不都合な真実」の次の本『私たちの選択』の翻訳を終えたばかりなのですが、その中で、今小林さんがおっしゃったことと重なる言葉が引用でありました。「誰でも自分の意見を持つことはできるけど、自分勝手な事実を持つことは出来ない」という一節です。
今、環境問題をとりまく論議のなかで、科学的根拠に基づく事実と個人的な意見が、ごちゃごちゃになっているんですよね。科学者という肩書きを持つ人が発言をしたとき、一般的な人はそれが科学的な事実のみを告げているのか、本人の意見を交えているのかを判断できない。
『朝まで生テレビ』の中では私や江守さんに対抗する立場だった武田さんとも、じっくり話してみると、その「事実」のところは同意できるんですよ。ただ、「意見」のところが違う。その区別が、伝わりにくいんですよね、きっと。

江守 科学者も人間なので、主観の部分をうまくコントロールするのは難しいところではあるんです。自分で主張している事柄があって、その意見について反論を示されたときに、「たしかにそうだな。自分の意見は違うかもしれないな」と思っても、その場では「でも、やっぱり」と言ってしまう。それは、科学論争に限らず、おそらく我々人間の話し合いのなかでは、よくあることだと思うんです。
ただ、環境問題のように、社会や政治にまで影響を及ぼす問題になってしまっている場合、それがものすごく世の中に大きな効果をもたらしてしまうことがある。科学者たちに、あるいは科学を解説している人に、その意識が、まだ足りないと思うんです。話し合いを重ねることで正しい答えをみつけていける事柄も、その途中の議論をメディアにライブで流されることによって、受け取る側には誤解を与えてしまうこともあるのではないかと。

小林 先日、絢香さんと対談したときに「テレビで『エコバックを使うこと自体がエコじゃない』という意見を聞いて迷ってしまった」と話していました。真面目に、常に気にかけている人ほど、迷ってしまう状況にあるわけですね。僕もap bankという活動を通して、環境問題に対する取り組みを、ある意味、発信しているわけど、迷いは常にありますから。だから今日のような場を作って、少しでも知識を増やして判断材料を増やす努力をしなければいけないと思っているんですけどね。
枝廣 淳子(えだひろ じゅんこ)
枝廣 淳子(えだひろ じゅんこ)

東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。2年間の米国生活をきっかけに29 歳から英語の勉強を始め、同時通訳者となる。米国のアル・ゴア元副大統領の著書「不都合な真実」の翻訳を手掛けるなど、現在は環境ジャーナリスト・翻訳者として幅広く活躍中。2003年、(有)イーズを設立。「自分を変えられる人は、社会も変えられる」をモットーに、自分自身を変え、さらに組織、地域や社会を変えていく「変化の担い手」を育てるため、各種講演、セミナーを開催中。福田・麻生内閣では「地球温暖化問題に関する懇談会」メンバーを務める。主な著書に『朝2時起きで、なんでもできる!』『地球とわたしをゆるめる暮らし』、訳書に『不都合な真実』ほか多数。
http://www.es-inc.jp
http://www.change-agent.jp
http://www.japanfs.org/ja

江守 正多(えもり せいた)
江守 正多(えもり せいた)

1970 年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に入所。「地球シミュレータ」の現場で研究を行うために2001年に地球フロンティア研究システムへ出向し、2004年に復職した後、2006年より現職に就く。東京大学気候システム研究センター客員准教授を兼務。著書に「地球温暖化の予測は『正しい』か?−不確かな未来に科学が挑む」、共著書に「気候大異変地球シミュレータの警告」等がある。IPCCにも貢献した日本の温暖化予測研究チームで活躍する、若きリーダー。
http://www.cger.nies.go.jp/ja/people/emori/

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