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小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子

「地球温暖化はほんとうにおこっているのか?」「正しい温暖化対策とは?」ある深夜のテレビ番組で、激論が交わされた。
異論を唱える側の主張とは?
なぜそのような議論が生まれるのだろう?放送では語りつくせなかった内容について、出演していた枝廣淳子さん、江守正多さんと、小林武史がじっくり語り合いました

updata:2009.12.28

第3回 消えないアンチテーゼ

小林 ちょうど1年前くらいに、温暖化は嘘だ、いまの取り組みは意味が無いよ、という論調が強まっていた時期があったように思うけれど、今はどうなの? 最近は少し落ち着いてきた?

江守 いえ、まだそういう風潮はありますよ。少し前にも、イギリスの「クライメイト・ゲート事件」というニュースが世界中で話題になったばかり。これは、「20世紀になってから地表の平均気温が異常にあがった」とする、要するに地球温暖化の根拠とされていたIPCC(*地球温暖化に関する最新の知見の評価を行う組織)のデータが、実はねつ造だったのではというニュースです。

小林 ねつ造したのは本当だったの?

江守 ねつ造疑惑の根拠とされるデータやら、いろんな意見がネット上などにも飛び交っていますが、僕がこれまで得た情報の範囲では、ねつ造とかいうことではなさそうです。ただ、僕はすべてのメールやデータを見たわけではないので、まだ結論めいたことを言うのは危険かと。
ただ、仮に本当にねつ造だったとしても、温暖化の根拠はそのデータがメインなわけじゃないので、それほど影響はないと思っているんです。なのに、このニュースを引き合いに出して「このデータがねつ造なら、これまでの温暖化についての話はすべて覆ってしまう」というように紹介してしまう人がいる。それはまったく違う話だと思うんです。

小林 それは深い問題だね。ひとつの嘘を見つけて、すべてが嘘だと言い切ってしまう。それはとても原始的というか、原初的というか。そのニュース、日本ではどれくらい話題になっていたのかな。

江守 新聞には取り上げられていたと思います。

枝廣 海外での方が、かなりセンセーショナルな話題として取り上げられていると思います。アメリカでは未だに懐疑的な人々が増えていますからね。日本は比較的、地球温暖化に対する懐疑論は収まってきていると思うんです。
小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子
江守 アメリカでは「CO2 is green」ってコマーシャルが流れていますからね。みなさん、CO2がないと植物は生きられませんよ、だからCO2は出した方がいいですよ、という。要するに、温暖化対策をすることが得にならない企業や団体もたくさんいますから。反対勢力が日本よりもずっと根強くいるということだと思うのですが。

小林 オバマ大統領の出現によって変わるところはないのかな。リベラルな思想で、強いリーダーシップでもって導いていくという期待は?

枝廣 たしかに、ブッシュ大統領の後ろ向きの姿勢に世界的にもストレスがすごく溜まっていたところに、颯爽とオバマさんが現れて、最初のスピーチで「温暖化を否定する時代は終わった」とおっしゃった。アメリカは他の国と協調してこの問題にあたっていくということをはっきりと言ったので、それが世界の潮流を作ったことは間違いないと思います。
ただ、アメリカにはそれ以前の問題もあるんです。京都議定書の時にゴアさんが最後交渉をまとめて署名をしたのに、いざアメリカに持ち帰ったら上院の反対にあって批准されなかった。あれはアメリカにとっても教訓になっていて、今は国内の法律を作ってからじゃないと外で公約しないと決めているんです。でも、その縛りがあるので上院を通さないと国際的に大きいことを言えない。そして、その上院が通らないんですよ。

江守 明らかに前進しようという動きは強まってると思うんですけど、そうなればなるほど反対する側もむきになって頑張りますからね。

枝廣 日本だと、懐疑論を唱える人々も、個人的に自分の学問的な考えとして反対している。アメリカのように、政治的な立場からの反対や、企業からお金をもらって反対意見を唱える人は少ない。だから、日本の方がエコへの取り組みを推進しやすい状況かもしれません。ただ、以前小林さんもおっしゃっていたけれど、エコが主流派になったときにエコ疲れみたいなのが来ることはあるんじゃないかと。
小林 主流の意見に、アンチテーゼは生まれるものですからね。

小林武史 × 江守正多/ 枝廣淳子
枝廣 淳子(えだひろ じゅんこ)
枝廣 淳子(えだひろ じゅんこ)

東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。2年間の米国生活をきっかけに29 歳から英語の勉強を始め、同時通訳者となる。米国のアル・ゴア元副大統領の著書「不都合な真実」の翻訳を手掛けるなど、現在は環境ジャーナリスト・翻訳者として幅広く活躍中。2003年、(有)イーズを設立。「自分を変えられる人は、社会も変えられる」をモットーに、自分自身を変え、さらに組織、地域や社会を変えていく「変化の担い手」を育てるため、各種講演、セミナーを開催中。福田・麻生内閣では「地球温暖化問題に関する懇談会」メンバーを務める。主な著書に『朝2時起きで、なんでもできる!』『地球とわたしをゆるめる暮らし』、訳書に『不都合な真実』ほか多数。
http://www.es-inc.jp
http://www.change-agent.jp
http://www.japanfs.org/ja

江守 正多(えもり せいた)
江守 正多(えもり せいた)

1970 年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に入所。「地球シミュレータ」の現場で研究を行うために2001年に地球フロンティア研究システムへ出向し、2004年に復職した後、2006年より現職に就く。東京大学気候システム研究センター客員准教授を兼務。著書に「地球温暖化の予測は『正しい』か?−不確かな未来に科学が挑む」、共著書に「気候大異変地球シミュレータの警告」等がある。IPCCにも貢献した日本の温暖化予測研究チームで活躍する、若きリーダー。
http://www.cger.nies.go.jp/ja/people/emori/

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