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緊急会議 小出裕章×小林武史 「原発は今すぐ止めなければならない」(3)

緊急会議 小出裕章×小林武史 「原発は今すぐ止めなければならない」(3)

かつては原子工学者として原子力の力を信じていたが、その研究過程で放射能被害や原子力エネルギーの限界を知ったという小出裕章さん。以来40年間、"原子力を止めることに役立つ研究"を続け、反原発を主張し続けている。専門家から見て、現在、福島原発はどのような状況下に置かれているのか? 今後はどのような展開が予測できるのか?(対談日:2011年4月28日)

updata:2011.05.15

「こんな事態になっているのになぜ止めないのか?」

原子力発電所は「止めたら安全」なものではない

小林 原発のコストの話をする時に、揚水発電というのが出てきますが、あれはどういう発電なんですか?

小出 火力発電所というのは石油や石炭、天然ガスを燃やして発電するので、今から発電したいよと言ったらすぐに起動できます。停止もできるし、出力を半分にしたり1割にしたりというのも容易にできるという発電方法ですけれども、原子力発電だけはそれができないわけです。何日もかけてようやく100%出力にしたらもうそれをずっと維持していかなければならない。停止する時もゆっくりと何日もかけて停止させるという、そういう運転方法しかないんですね。でも、100%運転を続けていれば当然、季節の穏やかなときの夜間などエネルギーをほとんど使わない時などには電気が余ってしまうわけなんです。でも不便なことに電気というのは溜めておけません。
小林 使わない電気をなんとか処理しなくちゃいけないということですか?

小出 そうです。そこでどうすればいいかというときに、揚水発電というのを思いついたんです。どういうものかというと、下と上に池を作って、原子力発電所の電気が余った時に、下の池から上の池にポンプで水を汲み上げておく。それで電気をたくさん使う時になったら上の池から下の池に水を落としてその水力を使った発電で電気を起こすということを考えついた、それが揚水発電です。でもそれは上に汲み上げて下に落とすということをやる度に3割エネルギーを損するという非常に馬鹿げた装置なんですね。揚水発電所の発電単価というものを計算すると普通の火力や水力の発電所のものと比べると10倍くらい高いです。ですから電力会社の人はその装置をなるべくなら使いたくない。
だから揚水発電所は日本の中にものすごくたくさんあるんですが、ほとんど動かないんです。それも全部、元をたどれば原子力があるが故に、そういう無駄な発電所があるということです。

小林 原子力の溜まりに溜まったエネルギーを逃がしてやらなければならないために、コストもかけてやっているということなんですね。

小出 だから原子力をやめてしまえば、揚水発電所もいらなくなります。

小林 なるほどね。では最後に、現実的な話としてお伺いしたいことがあります。今ある原子炉を今すぐ止めようと思ってもすぐにはできないんだ、という発言をしている人がいました。
緊急会議 小出裕章×小林武史 「原発は今すぐ止めなければならない」(3)
今動いている原子力発電を冷やさなければいけないから、ちゃんと停止するまでにはもう何十年もかかるという話なんですが。

小出 そうですね。それはそうです。

小林 1年後に止めろといっても、原子力発電を電線に流すことを止めることはできても、原子炉の運転を止めることすらできないんですか?

小出 いえ、核分裂反応はすぐにでも止めることができます。私たちが決断すれば。それをするべきだと思っています。今、日本には54の原子力発電所がありますが、私は今の福島の事故を見ながら、その全ての原発が何故止まらないのかと、それが不思議で仕方ないんです。止めようと思えば、核分裂は即刻止められます。まずはそれをやるべきだ。それを実行したって、先ほど仰っていたように、その原子炉の中にはすでに大量の放射性物質が出来てしまっていて、熱を出し続けているわけですよ。それは冷やし続けなければ原子炉が壊れてしまうというものですから。
小林 では例えば今動いている原発を全部止めて、核分裂を止めたとしますよね。だけど5年後にものすごい地震や津波が起きて、ということになると、また漏れだすという問題が起きてしまうわけですよね。

小出 もちろんあります。1つの原子力発電所で、今日でいうと平均的には100万キロワットというのが標準的なのですが、それを1年間おくと、広島原爆1000発分の核分裂生成物を生んでいるんですよ。今日本に1基100万キロワットで換算すると50基分くらいの原発があることになるんですが、つまり私たちが電気が欲しい、豊かな生活が欲しいと思ってこのまま続けていると、1年間で広島原爆5万発分の核分裂生成物というのを生み出しているわけですよ。
小林 すごい数値ですね......。

小出 日本は1968年から原子力発電というものを始めてすでに40年以上続けているのですが、ではその四十何年間かの歴史の中で、どれほどの核分裂生成物を生み出したかというと、広島原爆120万発分なんです。

小林 ははは(笑)......。

小出 ね、ちょっとその怖さってね、もうなんだかわからない、笑うしかないですよね(笑)。私も実感がないから数字だけペラペラと話せるんですけどね。
広島原爆1発分の核分裂生成物だって十分怖いでしょう? 私たちが豊かな生活をしたいからといって原子力発電を選択したがために、原爆の120万倍のものを既に作ってしまったんです。その核分裂生成物を消すという力が人間にはまだないんです。それは寿命の短いものも長いものもありますが、中には100万年間どこかに隔離して置かなければいけないというものもあるんです。何十年とかではないんですよ。

小林 とんでもない話ですよね。世界でもなぜ日本がこれほどたくさんの原発を......と驚かれていますね。

小出 そうです(笑)。こんな世界一の地震国で、ところ狭しと原発がある国は、他にはないですからね。

たとえ電力が足りなくなっても、原発は止めなくてはならない

小林 小出先生は京大で原発廃止のために頑張っていらっしゃるわけですが、一方で東の某名門大学の人たちがどうもベタベタというかズブズブの構造があるということがそれこそ漏れ伝わってくるのですが......。そういう日本の体質というか、官も経済も学問や化学の世界も様々な癒着を避けられないような構造になってしまっているのだと思いますか? もちろんお金の問題というのはあると思いますが。

小出 要するに、上昇志向だったんだと思いますね。今でもそうじゃないですか。経済成長はしなければならないわけですよ。
必ず何%かの経済成長をしなければみなさんが不幸になってしまいますよと、みんなそう思ってきたわけですよね。だけど、幸せってそういうことなのか?と。

小林 本当にそうなんですよね。僕らもそれを言い続けているわけなんですけど。右肩上がりで居続けられると、どうして言えるんだと。ものを生み出していく力が循環していけばそれで役割も見えてくるし。それで幸せが見えてくるじゃないかとね。

小出 本当にそう思います。
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小林 すごく単純な発想なのに、いつもどこかで誰かが「もっと豊かに」と言い続けますよね。

小出 その「豊か」というのが経済だ、金だというわけですよね。その経済の一部がエネルギーで、とにかく電気をたくさん使うのが幸せだということになっている。今だって原子力発電所が動いているのは、多くの日本人が「停電になるのがいやだ」と言っているからなんですよね。
私はもう、到底ついていけないです。こんな事態になって、なんで原子力発電所が止まらないのか不思議で仕方がない。電気が足りるとか足りないとか、そんなこととは何の関係もない。電気なんか足りなくたって、原子力はやっちゃいけないんです。

小林 そうですね。そういうことかもしれないですね。段々減らしていくとかではなくて、本当に危ないんだから......。
小出 私はもう、即刻止めなければいけないと思っているんです。

小林 なるほど。

小出 そう言うと、じゃあ電気はどうするんだとすぐにみなさんは言うけれども、それは後から考えなければいけないことで、原子力を止めなければいけないこととは関係ないと言っているんです。

一人ひとりが自立していくという生き方を

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小林 今は、原子力衰退派というか、衰退する方向にみんなでもっていこうという脱原発派の方々と、即刻止めようという反原発派の方々がいますよね。その両方を合わせればかなり多数になるとは思いますけれども。でもそれでもまだ日本の中でも8割くらいの人達は、「まあ、なんとかなるんじゃない? テレビやなにかで言われていることについていけばいいんじゃない?」という感じだとも言われていますしね。

小出 昔から日本人は"寄らば大樹の陰"というかね、御上がいっているから大丈夫という発想が根強いんですよね。これからはもっと一人ひとりが自立していくという生き方を作らないといけないと思います。小林さんがやられている音楽の世界というのはそういう意味では大きな力になるだろうなと私は思っているので、ご活躍を願いたいと思っています。

小林 ロックもブルースというマイノリティの音楽からきています。カウンターカルチャーみたいなところで育ってきているから、そういう意味でも、普通に丸め込まれてたまるかという気持ちはありますからね(笑)。頑張ります。
小出 僕らが子どものころは学校でプレスリーをかけたら、あれは不良だからかけちゃいけないと言われたりしましたからね(笑)。

小林 ただ、カウンターカルチャーだったはずのことも、パターン化されてしまってそこでみんな付き合い方を覚えてしまうと、それ以上どこにも発展しなくなるということもあると思うんです。その中にある本当のところを見ようとしなくなるという傾向があると思うんですよね。一応表面的には分かってはいるんだけれど、個人としてその先を見出そうということをしなくなっているということもありますからね。情報は溢れかえっているけれども、その情報と付き合っているだけというかね。けっこう高学歴の人たちにも多いですよね(笑)。
小出 そうですね(笑)。アカデミズムの世界だってそうですよ。国家が進める圧倒的な力の中でアカデミズムの体制が決まってしまうわけだし、そこに馴れ合っていればその世界では安住できるという世界ですから。ほとんどの人はみんなそこに行ってしまうということになります。

小林 そういう傾向があったんでしょうね。この原子力の世界にも。本当によく小出先生は頑張ってこられたなと思いまして。頭が下がります。

小出 いやいや(笑)。ありがとうございます。

小林 ぜひこれからも頑張ってください。僕らも一緒に頑張りますから。何か一緒にやりましょう。
どういう風に変えていくかという方法は、まだ僕にも分からないのですが。

小出 僕にも分からないんです。分からないからこうなってしまった。

小林 今ね、色々なメンバーを集めて一緒に頑張って行こうとしていますので、ぜひ小出先生のお力もお借りしたい。長い取り組みになるとは思うので。とはいえ、あんまりのんびりしていたらまた飲み込まれてしまいますからね。

小出 そうですね。一緒に頑張りましょう。

小林 今日はお忙しいなか本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
小出裕章
小出裕章
京都大学原子炉実験所助教

1949年生まれ。東北大学原子核工学科卒、同大学院修了。74年から京都大学原子炉実験所助教を務める。原子力工学者として研究していく過程で、原子力発電反対の立場となる。以来、原子力をやめることに役立つ研究を続け、著書、講演を通じて反原発を主張している。著書に『放射能汚染の現実を超えて』(河出書房新社)『隠される原子力・核の真実 原子力の専門家が原発に反対するわけ』(創史社)、共著に『原子力と共存できるか』(かもがわ出版)ほか。

(撮影・取材・文/編集部)

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