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小林武史 × 野茂英雄

小林武史 × 野茂英雄

1996年に雑誌の対談で出会ってから、10年以上の付き合いになる二人。
野球と音楽との意外な共通点から、野茂さんも興味があるという農業についての話題まで、和やかな雰囲気のなかで友人同士ならではの本音トークが展開されました。

updata:2009.06.19

第4回 「野茂英雄×小林武史 スポーツマンと農業とのかかわり」

最終回も、農業の話題で盛り上がりました。気心の知れた十年来の友人同士だからこそ、野茂さんの真摯で熱い本音もとびだした、他ではなかなか読めない対談になりました。

小林 ap bankの一つの試みとして、都内で野菜の直売所をやります。野菜の値段を、自分たちが知らないのも問題かなと思って、そういうこともちゃんとやろうと言っていて、スタートさせました。今度、野茂君も行ってみてくださいよ。

野茂 ぜひ、行ってみたいですね。最終的に農家を守る仕組みを、ap bankにやってもらえたらいいですよ ね。メジャーリーグでいうと、最終的には選手会が守ってくれるんですよ。選手会の組合が強くて、例えばイチローは人気があるからシアトルでイチロー・グッ ズが売れますけど、イチローもその次に売れている人も、分配金は変わらないんですよ。お金は全部いったんメジャーリーグに入ります。
そのお金が選手会とメジャーリーグと球団に分配されて、保険だったり年金だったり、いろんなシステムに回されます。なにか問題があったとしても、プレイし ている間は全部選手会が守ってくれる。僕はそのシステムはすごく優れていると思うんですよね。だから、農業についても「やっていくのはあなた次第ですよ」 という形にして、でも、ちゃんとその志を持った人を守るシステムは必要だと思います。
小林武史 × 野茂英雄
小林 そうだね。大丈夫ですよ、作りますよ。話をしていて、野茂君に聞いてみたくなったんだけど、野茂君は「これからの未来がどういう社会であればいいか」というか、「なにが必要だと思っているか」って、どうなのかな?それから、「選んだ以上は、その人たちにとっては農業しかないはずなんですからね」(編集部注:3回目の対談の発言)と言ったでしょう。それがどういう意味なのか、どういうことをさして、言っているのかなと思ったんだけど。もちろん、僕らは食べものがないと死ぬからね。その基本が農業だっていうのは、絶対に気づかなくちゃいけないと思う。

野茂 言い方は悪いのですけど、もし仮に僕が高校を卒業後に野球をする場所がなかったとして、今の時代に若者でいたとしたら、何もできへんから。ほんと、やれることがないと思うんですよ。
だとしても、農業ならば、スポーツマンの資質を生かして、できると思うんです。自分もそうなんですけど、今の世の中の仕組みとか、働き方とかに、適応しづ らいなと感じている人間がいっぱいいると思うんですよね。会社に入っても「この仕事に向いていないな」と悩んでいる人もいっぱいいるんじゃないでしょう か。

小林 なるほどね。
野茂 誤解を覚悟で言えば、農業は悩まなくてもいいじゃないですか。天候とね、ある程度の知識と「この時期にこ れをやる、あの時期にあれをやる」ということを教わってからは継続して、やるべきことをやる。もちろん、農業にも必要な知識や技術はあるでしょうけれど、 基本は毎日、一生懸命自分の体を動かすことでしょう。だとしたら、僕にもできるわけですよ。そういう意味なんです。
たとえば日本のプロ野球はメジャーのように引退後の保障がありません。だから、やることがなくなってしまう人って、本当に多い。不況のせいで、働くところがない人などが農業で自分のやることを見つけられる、そういう人たちがたくさんいると思うんですよ。

小林 今の話を聞いていたら、野茂君のように、そこまでちゃんと言うべき気がしてきた。普通はなかなか、そこまで言えないよね。
「そういうことにあんまり向いてない」ということを、言っちゃいけない社会になっているじゃない。「いつまで経っても機転も利かないし、そういうことに向いてない人間がいたっていいんだ。そういう人間がやれることが、絶対あるから」と言ってもいいと思う。

編集部 お金儲けとかノルマとか、やろうと思えばやれるんだけど。疲れちゃって、そういう生き方から降りたいみたいな人もいるような気がしますよね。
野茂 それはある程度、やった人じゃないですか。僕の場合は、やる前から、もう(笑)。いや、そういう人もいっぱいいると思うんですよ。

編集部 どうしてそう確信しているんですか?

野茂 まぁ、僕が野球選手だから。僕も野球がなかったら、どうしようもないなっていうことです。体力だけはあるけれども。野球選手って、そういう人が多いのではないかなと思います。
でも、もし、スポーツ選手の第二の人生というか、スポーツばかりやってきたやつでも農業をやって生きていけるとしたらすばらしいことだと思うし、そうじゃなくても人間が生きるっていうことを考えると最終的に残るのは農業だと思うんですよね。
小林 なるほどね。野茂君は謙虚な人だから、自分のこともふくめて厳しく言うけれど、実際、プロで活躍している 人にすごい能力があるのは間違いないことだよね。そうした人材を生かしきれていないとしたら、日本社会にとっても損失だから、たとえば農業という場で、何かできるといいんじゃないかな。
聞いた話なんだけど、フランスで、引退したラガーマンがワイン作りを始めて、話題になっているんだって。それも作り方が難しいバイオダイナミクス法で。ス ポーツマンは毎日、コツコツと訓練することの大切さを知っている。体力もある。それは農業にも向いているはずで、誰もが持っている美点ではないから。野茂 君はじめ、スポーツマンがかかわってくれることで、僕たちの農業も、なにか大きな可能性を持てる気がします。今日は時間切れになっちゃった。また、会おうよ。

野茂 こちらこそ、いつでも呼んでください。楽しみにしています。
野茂英雄
野茂英雄

1968年大阪府生まれ。1987年 新日鐵堺に入社。1990年 プロ野球近鉄バファローズ入団。1995年ロサンゼルス・ドジャース入団。その後、ニューヨーク・メッツ、ミルウォーキー・ブルワーズなどメジャーリーグ各球団に在籍。2008年7月、現役引退を表明。 NOMOベースボールクラブ理事長。

(撮影/浅田政志)

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