第1回 自社で働いている人間も"顧客"である
- 小林
- 僕らが出会うきっかけになったのが『プレオーガニックコットンプログラム』でしたね。
- 細川
- ええ、ちょうどデニムが"デフレ・アイコン"のようになったりしていた時期です。980円や880円なんていうものまで出てきて、マスコミはこぞって物価指数をデニムに置き換えてとりあげていて。
- 小林
- そんな状況の一方で、Leeでは既にウガンダ産のオーガニックコットンを使ったデニムに取り組んでいたんですよね。何年からでしたっけ?
- 細川
- 2007年ですからもう3年になりますね。
- 小林
- 「Leeにそういうことを本気でやってる人がいる」っていうのを、僕も友人伝(づ)てには聞いていたんですよ。ちょっと『プレ・オーガニック・コットン』の話にいく前に、そもそも細川さんはなぜオーガニックに取り組もうと思ったのかを聞かせてもらえませんか?
- 細川
- はい。みなさんご存知だとは思いますが、デニムというのはもともとアメリカのものでした。それが90年代に入ると、そのクオリティの高さから日本のデニムが注目を集めるようになるんですね。
- 小林
- 「メイド・イン・ジャパン」が売りになった時代ですね。
- 細川
- はい。でもその後は世の趨勢から我々もしばらくすると生産拠点を中国等に移すようになります。ただ、我々には日本にも自社工場があるんです。そこに勤めている人達の中には、旦那さんは東京に出稼ぎに行っていて、奥さんが地元に残って工場勤めをしていたりするような家庭も含まれたりもします。そうやってなんとか息子さんの学費を賄ったりするわけですね。そういうことを間近でずっと見てきていますから、会社としては「なんとかしてこの雇用を守っていかなければならない」という気持ちがあるんです。
- 小林
- なるほど。
- 細川
- でも、単に「メイド・イン・ジャパンです」ってだけではもはや誰も買ってくれなくなってしまっている。そこで、いろんな付加価値のカードを1枚2枚と乗せていかないといけなくなります。そのひとつとして出てきたひとつが"オーガニックコットン"でした。
- 小林
- では、もともとは環境意識ではなく、経営者としての方策だったということ?
- 細川
- そうですね。まず「売れるものを作る」という気持ちが先にあったのはたしかです。ただ、いざウガンダという国を訪れてオーガニックの現場を知ってみると、抱えている問題は同じなんだなということに気づくんです。ウガンダにも農場主がいて労働者がいて家庭があって。そこには農薬や労働環境など乗り越えなければいけない問題もたくさんあって。そういう側面を知ってから、もっと真摯に取り組もうと思って本格的にプロジェクトをスタートさせることになりました。
- 小林
- そういう「労働者の目線に立つ」というのは、ジーンズというものが労働者階級から生まれてきたものだということが根っこにあるんでしょうか?
- 細川
- 関係はあると思います。ただ、我々は製造業ですので共産主義的な見方をしているわけではないんですよ。製造業を営んでいる人はみな同じだと思いますけど、自社で働いている人間もまた"顧客"であることは間違いないんです。彼ら彼女らにもジーンズを買ってもらえるようでなければいけない。
- 小林
- そうやって社会が循環していくわけですね。
- 細川
- そうなんです。
- 小林
- 一方で、激安ジーンズというのにもきっと経営者と労働者と家庭がありますよね? そこにはどんな違いがあるんだろう。
- 細川
- より過酷なことがあるというのは事実ですね。安く作るために効率を上げなければいけないわけですから、おそらく搾取もあるでしょう。2年程前に中国のデニム工場を扱った映画がありましたが、遅刻をすると罰金を取られるといったペナルティも描かれていました。でも、こういったことはなかなか一般の人には伝えられていません。特に日本では。
- 小林
- そういった情報が明らかにできない何かがある?
- 細川
- やはり何らかの問題が生じるからなんでしょうね。あと、アメリカでパタゴニアがやっているような「我々はノースフェイスよりも環境に対する優位性がこれだけある」といった直接的な比較も日本では難しいですね。
- 小林
- 情報が乏しいというのもあるでしょうけど、日本の縮こまった経済状況自体が「安さ」に邁進させてしまっているというのもありますよね。


















