小林武史によるダイアリー。日々の出来事や、現在進行中のプロジェクトについて、今考えていることなどを綴ります。

偶然なるタイミング

2010.12.20 23:36

彼女が電話をしてくる2時間程前に、そのニュースが流れたらしく、
マエキタさんはこの諫早湾干拓事業問題について
4~5年前から公共事業として
干拓をやると決まってしまっていても止めましょうよ、
ギロチンと言われた門が閉まった後となる
いまからでも遅くないから、
過ちに気づいたならば、前に戻りましょうよ、
と言い続けてきた人なんです。

彼女は数年前、どれだけ諫早湾が素晴らしい干潟であり、
多様な生物を宿しているものかという素晴らしさを
伝えるためのDVDを作られました。
クリエイティブディレクターに信藤三雄さんが入られて、
映像に何か歌をのせましょうということになった時、
僕が相談を受け、当時まだリリイ・シュシュを終えたばかりで
無名のSalyuが歌うことになりました。
そこで作った曲が「砂」なのです。

「砂が目に入る」というようなドライな空間、
干潟を塞いで乾いた地面になってしまったところを
砂混じりの風が吹いていく
というような空間をイメージして作った曲でした。
当時そのDVDを広げていくようなことに、
その楽曲はあまり役に立てたとは言えないんだけれども、
一部では評価は高く、この間のリリイ・シュシュのライブでも、
取り上げようと思った曲だったのです。

ライブの本当に数時間前に、諫早湾に対しての回答が出て、
マエキタさんからDVDを作った当時の僕の尽力に対しての
御礼電話だったのです。彼女は少し興奮気味に、
「本当に日本にとって歴史的な日なんですよ」と言っていました。
日本でいろいろ行ってきた公共事業的なことが、
誤りがあったとしたなら、Uターンをした方が良いことを
初めて良しとした事例となったのです。
もちろん公共事業というのは、
僕らの国民の税金を使ってやっているのですから、
このようなUターンがたくさんあっては困るんだけれども、
でも間違ったまま突き進んでいくのは、もっと怖いです。

しかもこういったことを決めているのは、
いつまでも高度成長が続くと思っていた時代の決定が多いのも事実です。
一度決めてしまって、そこに利害関係が生じる人たちにとっては
工事を途中でストップするというのはなかなか難しいのは解ります。
だけれども、勢いだけで進んでいける時代ではないし、
そういった意味では、今回の諫早湾の判決は、
本当に記念すべき判決になったのではないでしょうか。

そして、僕が今日リリイ・シュシュのライブがあって
「砂」を演奏すると伝えたら、マエキタさんは、
「え、本当に!?鳥肌が立った!」と感激しておられました。

僕はライブの時に少しだけそんなことを思いながら、
「砂」を演奏していたような・・・どうだったっけな?




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小林武史

音楽プロデューサー、キーボーディスト。Mr.Childrenをはじめ、日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手がける。映画『スワロウテイル』(1996年)、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、など、手がけた映画音楽も多数。2010年の映画『BANDAGE(バンデイジ)』では、音楽のみならず、監督も務めた。03年、Mr.Chilrenの櫻井和寿、音楽家・坂本龍一と自己資金を拠出の上、一般社団法人「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進のほか、「ap bank fes」の開催、東日本大震災の復興支援など、さまざな活動を行っている。