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上杉隆×小林武史「ガラパゴス化した日本のメディア」(4)
政府の発表、テレビや新聞のニュース、専門家の意見......。僕らに与えられている情報は何が正しくて、何が間違えているのか。メディアの内側を見てきたジャーナリストの上杉隆さんにその実情を語ってもらった。(対談日:2011年9月13日)
updata:2011.10.19
日本が未来に向かってやるべきこと
ニュークリア・マフィア
小林 広瀬隆さんは訴えだしましたもんね。
上杉 広瀬さんも、自由報道協会でしか会見できないんですよ。既存メディアは一切無視ですから。
小林 そうなんですか。
上杉 いずれにせよ、野田政権が続く限りは、基本的には変わらない。健康被害が出てくるであろう5年後くらいになったら、その時にはもう、今の原子力保安院も東電の幹部もいない。政権の人間も、菅首相の代は全員いない。そして、マスコミの幹部も知らないふりをするわけですね。そうするとまた免責になっちゃって、泣き寝入りするしかないわけですからね。原賠法(原子力損害賠償法)だって改正されちゃったし。一時金で100万円払っていますけれど、1999年に起きた東海村JCOの(臨界)事故だって、あれだけの事故を起こして賠償しますよと言って、手付金に100万を払ったあとは一銭も払っていないんですよ。
要するに、ほとぼりが冷めてしまうと黙ってしまうんです。だから、ずっと僕は「とにかく全員、福島の人だけでなく東日本の人、特に子どものいる人は、3.11から自分がどこにいて何を食べたか、全て記録をとっておいたほうがいい」と言っています。絶対に、政府も東電も嘘をつくから。だから、国賠になったら、原爆訴訟やイタイイタイ病も水俣病そうだけれど、記録をとってそのメモを持って戦うしかないのだからと、講演のときも最後に必ず言うんですよ。とにかく子どものためにメモをとってください。それで何もなかったら一番いいし、その時は僕のことをデマ野郎と言っても構いませんから。もしなにかあったときにはそれを使って、戦ってください、と。
小林 本当にそうしたほうがいいのかもしれない。大変だけど。
上杉 今年、軽井沢で行われた日弁連の夏季研修会の基調講演には僕が呼ばれたんです。なぜかというと、日弁連の特に頭のいい人たちは分かっているんです。つまり、今後日本の弁護士業務の半数は、企業も含めて放射能の賠償請求ばかりになってしまうんですよ。その対応として、どうすればいいかということを今から考えているんですね。日本は完全にそういう国になってしまった。
その認識が、今は政治にもないし、それを警告することがメディアにもまったくない。正に、原子力国家、核マフィア国家になってしった。海洋リークの一件で、日本はテロ犯罪国家と同じくらいの評価をされているんです。だから、先進国G8からも多分脱落するでしょうし、海洋リークしたために今後数百兆円規模のお金がかかる。この話をしたら朝生(「朝まで生テレビ」)では笑われましたけれど、でもこれは、フランスやドイツのメディアでも書かれています。それに経済産業省にいた古賀茂明さんや岸博幸さんも同様のことを言っている。
小林 なんだっけ、何十京ベクレルなんだよね。これって、海に流れて影響がないわけは当然ないんでしょうけれど、実際はいまどうなっているんだろう?
上杉 日本はそれに関するグリーンピースの調査を拒否、IAEAの査察も3月に拒否、WHOの勧告も拒否しています。これは、これ全部3月と4月なんですよ。ところが、日本のメディアはそういうことを一切報じないんです。WHOを拒否したのも初めてだし、グリーンピースの査察を拒否したのはインドネシア以来2カ国め。IAEAの査察を拒否したのは、リビア、北朝鮮、イランに次いで日本が4カ国目ですよね。世界から見ると日本は今、そんな国なんです。
日本が抱えている3つのこと
上杉 大きく分けると、日本は今、3つのことを抱えてしまっているんです。さっき言ったように、海洋リークだけで環太平洋20カ国が4カ年プランで作って、4年後に賠償請求を出していくんですよ。それが少なく見積もっても、200兆円くらいですかね。200兆円といったら、国家予算の数倍。飛散している放射能も入れると、たぶん数百兆円ですよね。それを賠償で払わなくてはいけない。そうすると、ものすごい負担になりますよね。それと同時に経済はいいかというと、ご存知のように農産物や海産物など日本の最高級ブランドはまったく売れなくなっています。どの国も日本の物は輸入禁止にしていきますから。牛だって海産物だって放射能汚染されているものは、生鮮食品ではなくて放射性廃棄物なんです。どの国も放射性廃棄物は引き取らない。そうなると半導体も売れないですよね。工場自体が放射能に汚染されているものはもちろん、車も売れませんからとめているわけです。でも作らなくてはいけない、ということで世界中で今、中国とかマレーシアに部品工場が動いているんです。
これで一番やばいのは、仮に9カ月後に日本の工場が除染できました、戻りましたといっても、一度向こうの安いところで産業を作ってしまったら日本には戻ってこないんです。そうすると、産業が空洞化して、多分GDPだって半分くらいに落ち込むんじゃないかな。そうなると当然ながら、G8先進国からは脱落して、税収も入らない。そして国からどんどん人が逃げていく。中小企業もみんな円高で逃げるといっているから。そうすると、お金がなくなって更に賠償金がかかる。そして、それを税収で賄おうとするけれど、子どもたちは、健康被害で治療しなくてはならない。そういう意味で、4月4日の時点で、これは国として終わっているんですよ。その認識が、国会にもないし、メディアもない。日本人には全くない。そうなると、ちょっと厳しいな、と。
小林 暗くなるね......。
上杉 あとはせめて、賠償請求をきちんとやりましょうと。
それもできないんだったら、もう何も言いませんので、3つだけ法律を作って欲しい。ひとつは、内部被曝が怖いので食品の値札に全部放射線の値を入れてくださいよ、と。これはチェルノブイリのときもドイツやフランスの市場でも実行されました。そうしたら、みんな見て買えるじゃないですか。それで、線量の高いものは捨てる。ギリギリ食べられるものは、ディスカウントする。大丈夫というものは普通の値段で売る。そして2番目には、それを買った地域も社会も家庭も、線量の高いものは60歳以上の人が食べるようにしてください、と。先はそんなに長くないし、放射能には強いのだから。
小林 小出裕章さんも同じことを言っていました。
上杉 こんな国を作った責任もありますよ。さらに線量の低いものは子どもたちに優先的に食べさせる。これを法律で作ってくれと。3つめが天気予報での飛散状況。つまりスピーディーの公開で、今日は放射能がこっちに飛びますということを全部公開してほしい。
そうしたら、明日はたくさん飛ぶらしいから子どもたちを外で遊ばせるのはやめよう、とか、洗濯物はまずいとか、雨が降るから学校は休校にしようという対策がとれる。花粉では人は死なないけれど、放射能では人が死ぬ可能性があるのだから、それくらいはやってくださいよ、と。この、ずっと言っていた3つのことを最後にお願いしたんですね。あとはもう日本人だからここで生きていくしかないので放射能と付き合っていくしかない。ゼロというのは絶対にないから、付き合って賢く生きましょうと発想を転換して、みなさんを先導してくださいということを言ってるんです。
小林 そうか......。今のような話を朝生に出演するなどして、もっと広く伝えることはできないんですか?
上杉 言いましたけど、潰されましたよね。ちょっとしゃべってもわーっと言われて。前に出演したときだって、大連立を組まれたんですよ。他のときは与野党言い合っているのに、放射能のことに関しては、与野党共そろってみんなわーっと僕の意見を潰す。それは、司会の田原総一朗さんもそうですしね。だめですね。
小林 上杉さんがもうフリージャーナリストを辞めるというような発言もありましたが。本当なんですか?
上杉 ジャーナリストとしては来年の4月から休業します。フリーランスになってから、今年でちょうど10年なんです。ニューヨーク・タイムズにいたことを合わせると、12年ですね。ちょうどキリも良いので。ここまで話してきたことも含め、3.11以降はもう本当に「こんな人たちと一緒にやっているのは無理だ」と。将来の日本人から見て、自分もメディアの一員として結局は共犯関係にされてしまうんだなと。それは、申し訳もつかないし、じゃあそこから一度離脱して、アプローチの仕方を変えようかなと。これからは、記者クラブという硬直したシステムに風穴をあけるとか、倒すとかいうのではなくて、別のチャンネルを作ってそこから情報を流すようにしようかなと。
小林 なるほど。
上杉 その作業に集中して取り組もうかなと思っての休業です。だから、ネガティブな意味と積極的な理由のふたつがあるので。そのなかで、ゴルフももう少し。
小林 ゴルフ?
上杉 もともと3割くらいはゴルフジャーナリストとしての仕事で飯を食っているんです。そちらの方にシフトをしていこうと思いまして。今月、これに出たんです(鞄から雑誌を出して)。
小林 へぇ。
上杉 『Go!gol.』というゴルフ雑誌です。自慢しているわけじゃなんですが......実は、大自慢したいんです(笑)。ゴルフの雑誌としては無料ということもあってよく読まれているものなので。もともと僕は『ゴルフダイジェスト』でずっと連載を持っていて。
更にこの本に出られると、ゴルフ界でも認められるという感じになりまして、たぶん。
小林 僕はまったくゴルフをやらないからわからなくて申し訳ないのだけれど......。そんな雑誌があるんですね。
上杉 これ、フリーペーパーなんですね。日本全国のゴルフ場に置かれているんです。ずっとプロが出ていたんですが、プロ以外として表紙にでる喜びというか。
小林 ちなみに、平均スコアはどれくらいですか?
上杉 中学・高校とやっていましたので、高校のときの71が一番いいですね。それ以降、伸び悩みというか、真剣に取り組むのはやめちゃったんですけれど。
小林 でも、よく100切るとすごいっていうよね。そのスコアすごそうだよね。
上杉 ゴルフは当時......というか、まあ今も、環境破壊だと言われていますけれど、それは、生態系の問題と温暖化問題をごっちゃにしている論理なんですよね。環境省もやっとその辺を考え始めたようで。生態系を破壊する可能性は高いが、温暖化に対してはむしろ芝生の方がよかったりとか、震災のときの避難地域として活用されたりとか。今回の福島の原発の事故では、ゴルフ場を最終中間処理場にしようとしている話もあるんですよ。そういうことでいいこともあるということで。以上、ゴルフの宣伝でした(笑)。
小林 いろいろ免罪符にしているんですね(笑)。今日はいろいろと興味深かったです。また、機会をつくって続きを聞かせてください。ありがとうございました。
(対談日:2011年9月13日)
――対談を終えて――
かなり衝撃的な内容が含まれていたインタビューでした。
上杉さんの話をどこまで信じ込むかは、人それぞれだと思うし、
色んな意見もあると思うけど、特に福島や他の地域の被曝に関する事は、
彼のような捉え方もある、という風に止めておいた方が個人的には良いと思います。
それは別として、日本がメディアとして閉鎖的なのはよく分かったし、
他の分野同様にガラパゴス症状であることも分かりました。
それも結局は、富と権力に群がる、またはそれが起こす暴走、に繫がるのだろうし、
それは現在の金融危機に代表されるように世界中の問題です。
日本だけの固有の問題を嘆くより、
僕らがどう進んでいくかを話し合うなり、
考えるなりしなければならないと思いますね。
小林武史
上杉隆
フリージャーナリスト
自由報道協会暫定代表
1968年福岡県生まれ、東京育ち。都留文科大学卒業。大学在学中から富士屋ホテル(山中湖ホテル)で働き、卒業後NHK報道局勤務。26歳から鳩山邦夫の公設第一秘書を5年間務め、退職。ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者になる。退職後の2002 年、フリーランスジャーナリストとして政治・メディア・ゴルフなどをテーマに活躍中。著書に『記者クラブ崩壊』(小学館101新書)、『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書)など。
(撮影・取材・構成/編集部)