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緊急会議 飯田哲也×小林武史 (3) 「僕らは今、何をすればいい?」

緊急会議 飯田哲也×小林武史 (3) 「僕らは今、何をすればいい?」

放射能をどれだけ警戒すればいいの? いつまでどこまで節電すればいいの? 何が起きているのか、本当のところが分からずに混乱している今、具体的な状況と対策についてを飯田さんに聞いた。(対談日:2011年3月29日)

updata:2011.04.09

もう、元には戻れない

きっかけは“天災”だけど、今起きていることは“人災”

緊急会議 飯田哲也×小林武史 (3) 「僕らは今、何をすればいい?」
小林 この間観た某テレビ番組で、世界に対して企業の原子力の輸出価値というものが、国益として重要なんだということなども言っていましたけれど。今の日本の原子力技術って、飯田さんの話を聞いているとそんなになんかこう...、バリバリのエースって感じもしないのですが。

飯田 しないですよ(笑)。日本の技術なんて「ない」って私は言っていますけど。

小林 そうですか。

飯田 まず客観的な証拠として、日本は原子力技術を導入してもう50年以上経過しているのに、なぜ今さら、某企業が5000億円も払って、ウェスチングハウスを買収しなきゃいけなかったのか、ということが、すべてを語っています。例えば他の国は最初の頃は原子力技術をアメリカから輸入していたけれども、スウェーデン、ドイツ、イギリス、フランスはみんな自前の設計パッケージを持っています。日本では、設計図面には日本の企業名が書いてあるんですけれども、実態としてはエンジニアリングパッケージと呼ばれるところはどれもGEかウェスチングハウスのものなんですよ。日本の原子力企業は、設計パッケージという本質的な部分を50年経っても作ることができなかったのです。
私は原子力の空洞化についてははっきりと証言することができます。

小林 外側はハイテクに見せかけて、内側はベニヤ板っていうことですか。

飯田 それですね。もうちょっと具体的にいうと、1995年と昨年(2010年)に起きたもんじゅ(福井県敦賀市にある日本原子力研究開発機構の高速増殖実証炉)の事故が象徴的です。ふたつの事故はよく似ているんです。1995年は熱電対と呼ばれる金属の温度計が折れちゃった。今回は燃料を扱う肝心機器である炉心の上に落ちちて、にっちもさっちもいかなくなっている。そういう重要部材すら、まともに設計できていない。子会社、孫会社みたいな町工場の下請け的なところに作らせているし、それを設計した人は、原子炉の中でどういう力がかかるかということをまともに計算できていない。燃料の上を通るという極めて重要な部材が簡単なビスで止めるようになっていて、落ちた瞬間にそれが潰れて使い物にならなくなっている。そういう部材はもちろん落ちないように設計されるのが当たり前で、仮に落ちたとしても、復旧可能なようにひとつの塊で作るべきです。そんな素人でも分かることがいくつも積み重なっているんです。

小林 なるほど。
飯田 もっと深刻な現実があります。ちょっと専門的なことなんですけれど、こういう原子力機器を作る時に、その素材や成分や溶接の仕方や、その後の検査の仕方まで設計ルールのガイドラインがあるのですが、それは、アメリカではアメリカ機械学会(ASME、アスメ)という団体がオープンソースで作るんですね。みんなの知恵を出し合った、壮大な知の体系があるんです。だけど日本ではどうしているかというと、ASMEが作ったそのガイドラインをヨコからタテに訳しただけのものが、経産省の所管する電気事業法の下の、法律ですらない告示にぶら下がっているわけです。実際にこういうことを経験しました。私が神戸製鋼で新素材を開発して原子力機器で使おうとしたときに、どうしたかというと、まずはアメリカ機械学会に登録するんですよ。それが受理されると、自動的に日本のガイドラインでもOKということになるんです(笑)。たぶん、最初に一生懸命取り組み始めた1960年代は、東電も関電も国もすごく真剣にやったんだと私は推察するんですが。それがだんだん日常化・常態化して、表層的な官僚主義がはびこってしまった。
国の検査官など、そもそも経験してないから、見るところすらわからない。そういう官僚主義の繰り返しがどんどん膿のようにたまっていって、ふと気づくと、原子力ムラは本当に空っぽで中身がうつろになってしまったんですね。だから、日本には輸出できる原子力のエンジニアパッケージなどひとつもありません。優秀な技術からは程遠いのです。原子力輸出と意気込んでも、日本は下請けとして参加できるに過ぎないという現実がある。

小林 絶望的な話が続きますね。

飯田 うん。それを表面しか見えてないから、ハイテクだと思い込む底の浅い政治も、非常に情けないと思います。

小林 でも事故が起きた当初は、海外のメディアでも、日本の原発というのは世界一安全と言われているのにその原発が......みたいな報道がありましたよね。
飯田 ええ。

小林 でもそんなことはないわけですね。

飯田 そうですね。

小林 つまりハリボテの部分でそう見せていくから、海外のメディアも日本の原発技術は優秀だとそう思い込まされているところがあるけれども。飯田さんの今まで経験したことから言えば決して優秀ではないということですよね。

飯田 絶対ないですね。だから、アムステルダム大学の教授をやっているカレル・ヴァン・ウォルフレンが書いている『日本/権力構造の謎』(早川書房、1990年)という本はまさに日本の構造を的確に評価した本でした。ウォルフレンはその本で「日本はちゃんとできているんだ」という海外向けのスポークスマンがいる、と指摘していました。
飯田 これは、エネルギーに関してもまったく一緒です。経産省の周りにいる御用学者とか御用研究所の人たちは、「日本は省エネがすごく進んでいる」といった数字を絶えず外に説明している。しかし、私がその内実を解説したことのあるスウェーデンの研究者など、最初から日本は駄目だとわかっている人もいます(笑)でも今回はあまりにも事故処理の対応がでたらめなので、さすがに日本はどうなっているんだ?とほんとに心配している。まさに原子力ムラの内側はどうなっているんだということに、いま海外のメディアは注目しています。

小林 飯田さんはかなり絶望的な状況を前から感じてこられて、でも、まさかさすがに僕らが生きている間にこれだけ大きな原発事故が起こる事は、予想されていませんでしたよね? 悪夢が現実になったかたちですよね?
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飯田 本当にそうですね。予兆はこれまでもありましたよね。もともと中身が空っぽだと原子力ムラの内側にいるときに思っていて。それでも現場の人のがんばりとか、色々な現場の努力がなんとか繋いでいたものが、もんじゅの事故(1995年)あたりから、ぽろぽろとこぼれはじめましたよね。1999年に起きた東海村のJCOの事故では、マニュアルを無視してバケツで作業していたっていうのも、原子力ムラの中身のうつろさの象徴ですし、それから、2002年から2003年にかけての、東電のトラブル隠し。あれは、実は全電力会社がやっていたんですけども。

小林 なにを隠していたんですか?

飯田 色々な検査データです。それまでにも全部、内々に誤魔化していたんですよ。それがメディアも含めて、最後は東電が悪いというふうになってしまったんですけど、実は国の原子力安全保安院も同じ穴のムジナなんですよね。そのことがいままでちゃんと伝えられていないのですが、始まりは東電の協力会社の内部の人がトラブル隠しについて、まずは保安院に内部告発したんです。
そうしたら保安院はそのことを握りつぶしただけじゃなくて、東電に対して「こんなことを言ってきたやつがいるけど大丈夫か」と言ってしまった。それで、内部告発をした人はもう東電の協力会社を退社せざるを得なくなったんですが、そういうホイッスルブロワー(警告者)が現れても、国と東電が一緒に隠ぺいしようとしたんですよね。そういう話が、佐藤栄佐久前福島県知事の耳に届き、これはとんでもないと福島県が表沙汰にしました。そこで原子力保安院は、態度を一変して急に正義の味方になって、東電はとんでもないと言い始めたんですよね。そういう国の体質と、国の底抜けの安全管理の体質が露呈しそうになったけれど、あのときは結局最後まで逃げ切ったわけです。

小林 そうなんですか。

飯田 そして、その頃にちょうど重なったのは、原子力機器のひび割れ問題です。あれもうやむやになって今日にきているわけですし。あと2007年に柏崎刈羽原子力発電所を中越沖地震が直撃したときも「想定外」という言葉が使われました。
「原子力機器の許容応力をはるかに超える力がかかったのだから、そういう原発は廃却されないといけない」と言われたのですが、その頃に出された耐震基準の見直し案に対しては、神戸大学の石橋克彦先生とかは全然この見直しじゃだめだとしっかり言われていましたし。

小林 確かに柏崎の場合は、うやむや感がありましたね。

飯田 この福島の第一、第二原発に関しても、「全電源喪失が起きたらとんでもないことが起きるんじゃないか」とか、「津波はちゃんと想定しているのか」といった、すでに石橋先生も指摘されていることが、今回、現実に起きてるんですね。本当にこの福島第一事故は、まさか、というものではあるんですけれど、今から振り返ると、そうなっても致し方がないような経緯を辿って今日まできている。そういう意味で、きっかけは天災だけれども、あきらかに人災、という要素が大きいのではないかと思います。

怖いのは、放射能による内部被ばく

小林 今回の原発事故の話をいま一度振り返りましょうか?飯田さんはこの放射能汚染のことを含めてどうお考えなのでしょうか?

飯田 時間がかかると思いますけれど、事故そのものはなんらかの形で終息させて、あの辺りは立ち入り禁止のような状況になっていくだろうと。

小林 立ち入り禁止はどれくらいの期間ですか?

飯田 これからの進展次第ですが。閉じ込めを完了してこの事故を終息させるだけでも、数か月を越えて、ヘタをすると年のオーダーがかかるんじゃないかと思います。そのあとも、放射能レベルの極めて高い使用済み燃料が内側にあるので、あの辺り一帯というのは、ほぼ半永久的に、管理区域になっていくと思いますね。

小林 ほぼ最悪の、というよりも、おそらくそうなるだろうということで?
飯田 そうなると思います。距離はこれから起こること次第ですけれども、今のままである程度収められれば、数キロ範囲内が立ち入り禁止で、数十キロは要警戒区域などになると思います。もっとひどいことが起きればその範囲は広がります。チェルノブイリがいま10キロ範囲くらいです。ただ福島はまだ続いていますからね。一体、どこまで放射能が出ちゃうのかと。

小林 世界的に福島の名前が有名になっちゃうわけだよね。

飯田 もうすでになっていますね。スリーマイル、チェルノブイリ、フクシマ、ですね。それが浜岡に続かないことを祈りますけれども。

小林 チェルノブイリなどでは、事故から10年以上経った後に子供たちのガンが増えたりしているそうですね。そういうことも、ちゃんとしたデータとして数値がとれないなどといって言い逃れをしているところもあるんですよね。
飯田 単純に放射線の被ばくという意味でいうと、確率的な影響の観点から集団でみていくと発ガン率を高めていることは間違いないと言っていいと思います。もうひとつ重要な違いがあって、それが外部被ばくと内部被ばくです。ブラジルとかイタリアなどはもともと自然からの被ばくが多いとか、飛行機に乗って浴びる被ばくというのは、レントゲンと一緒で、外から浴びるものなんですよね。それももちろん発ガン率を高める一因にはなる。でも今、福島原発から放出されて都内などで検出されているのは、内部被ばくを警戒しないといけない。あれは体内に入ってしまうと居座り続ける可能性がある放射性物質なんです。内部被ばくと外部被ばくとでは、根本的に違っています。これは専門的になりますけど、放射線には、α線、β線、γ線という三種類と、プラスして中性子という大きく四種類があります。中性子は、福島原発で事故処理に当たっている人以外は、考えなくていいんですね。で、中性子とγ線が主に外から浴びる放射線で、α線とβ線が内部被ばく型の放射線。
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まず、γ線と中性子というのは透過力がすごく強いんです。だからコンクリートとか鉄の壁もぶち抜きながら透過していく。透過していくので怖い部分と、逆に弾丸が貫通するような感じで透過していくので助かる部分があるんですね。α線とβ線にはその貫通力がなくて、それこそ紙やアルミ箔一枚で防げるので、外部被ばくの怖さはあまりないんです。そのかわり、アルミ箔一枚通り抜けることができないということは身体の中に入ってしまうとそのまま体内に居座り続けるんです。α線というのはヘリウムの原子核、β線というのは電子なんですけど、それが体内でDNAをひたすらぶち壊し続けるんです。だから身体に入るとめちゃくちゃ怖いんです。外部被ばくの方は瞬間の話ですから、そこでDNAが壊されても修復されれば終わるんですが、内部被ばくを起こす核種は溜まる場所が決まっていて、話題になったヨウ素131というのは甲状腺に入るから、甲状腺で一定の濃度が入ってしまうとほぼ確実にガンを発症してしまいます。それからセシウムは一旦肝臓を通って、筋肉でいわゆる骨肉腫みたいなのを起こしたり、生殖器のガンを起こしたりしてしまう。
で、ストロンチウムとかプルトニウムは、身体に入ると骨に溜まって、白血病とかを起こしてしまうんですね。ブラジルやイタリアで自然の放射線が高いと言われているのはγ線で、福島原発から放出されて都内で検出されているのはα線やβ線です。種類が根本的に違うので、福島で検出される放射線のレベルと、たまたまブラジルとが同じだったとしても、怖さはケタ違いに福島の方が怖いんです。

小林 なるほど。この辺のことは、飯田さんは専門外なのかなと思っていたのですが。

飯田 私、一応、第一種放射線取扱主任者の資格を持っているので。プルトニウムを扱ってもいいんですよ(笑)。それはありえませんが......。

小林 つまり今、報道されている情報は、僕らはどういうふうに対処すべきなんですか?

飯田 とりあえず首都圏での日常生活においては、「気にしないといけないけれども、気にしすぎても仕方がない」というレベルだと思います。東京の辺りは、ですね。ただ、放射能濃度が相当高くなりそうなところだけは、本当に退避しないといけないですし、妊婦や乳幼児は特に注意が必要ですね。放射能はDNAに作用するのですが、
分裂している最中のDNAは感受性が高いので、妊娠初期とか、乳幼児とか育ち盛りは要注意です。子供たちの甲状腺も放射能の影響を受け易いので、なるべくならできるだけ原発から距離を置いたほうがいいと思います。これから何が起きるかは本当に分かりませんので、状態が悪化した場合には西日本への退避なども考えておいてもいいかもしれません。まだ今のところは容認レベルだとは思うんですが。でもすでに水道水に入って、300ベクレルとか500ベクレルなど検出されはじめているので。要警戒領域であることは否めませんね。

小林 水道水については、日によって放射能の数値が高かったり低かったりするわけだけれども、最終的には「合計で1年間にどれだけ摂取してしまうか」というところが問題だという説もあるじゃないですか。例えば、3日間100ベクレルの水を飲み続けるのと、1日だけ300ベクレルで残り2日はゼロベクレルの水を飲むのは同じことだと。あれは本当なんですか?

飯田 一応、そういう考えで良いと思います。ただし、その基準が本当に確かな数値がどうかというのはわからないのですが......。もうちょっと細かい話をすると、ICRP(国際放射線防護委員会)の基準というのはかなりゆるいんですね。
放射線疫学の世界ではもっと細かい緻密な理論があって、それのリスクによっては、ICRPよりは10倍以上、発ガン率も含めて高いだろうという学説もあります。ICRPは内部被ばくのリスクを、あまり考慮しないで基準値を出していると言われています。だからICRPの基準よりも低いから大丈夫、とは、必ずしも言えない。

小林 内部被ばくがそれだけ危険だといっているのに、それを捨てているの?

飯田 そのリスクをあまり評価しないで発ガン率を検証して、「このレベルだったら大丈夫」といっているのがICRPの勧告している数値なんです。だから僕はICRPの基準の10倍くらい、厳しくみないといけないと思ってるんですね。

小林 内部被ばくこそ怖いということですよね。やばいじゃない。

飯田 だから「これくらいの数値なら大丈夫ですよ、今日の数値が高くても一年間の平均摂取量で考えれば大丈夫なんですよ」と言われても、その基準としている数値より本当は10倍くらい危険かもしれないということですよね。その不確実性についてちゃんと知っておかないといけないということですね。

計画停電をしないでこの夏を乗り切る方法

緊急会議 飯田哲也×小林武史 (3) 「僕らは今、何をすればいい?」
小林 すこし現実的な、これからの対応の話をしましょう。飯田さんは現状の原発体制に対して批判するだけではなく、エネルギーに対しての新しい提案もされていますよね。短期的には今年の夏のピーク、電力の消費のピークに、計画停電をやらなくちゃいけないと東電は呼びかけていますけれども、それをやらなくてもいいかもしれないという。夏場のピークの大口契約の改善について......、というところを教えてもらえますか? そもそもどういう契約が電力会社とあるんですか?

飯田 需給調整契約といって電力会社が個別の企業と交わしている「ピークになったときの需要を落としますよ」という契約があります。そのかわり、ちょっと値引きしてあげますよ、ということですね。

小林 なるほど。

飯田 それは「通告なしで即座に落とす」「1時間前通告」「3時間前通告」という3種類あるんです。それによって割引率が違います。まあ、私契約で価格は秘密なので出てこないんですけど。
企業も始めから契約しているわけですから、じゃあそれを減らされるときにはここを落とせばいいと用意できているんです。これを中心的な施策にして、もう少し小口の500キロワットから2000キロワットの契約になると、件数が一気に何万件と増える。さらに小口の50キロワットから500キロワットくらいまでいくと、これはもう何十万件と広がるので、今の市場メカニズムのピーク価格をあげる対応で十分に電力量が下がると思います。 最後はもうちょっと小口の家庭などですが、こちらは価格をあげてもあまり減らないんですよ。企業にとって電気料金は切実ですが、家庭の方々は基本料金や電気料金があがってもあまり気にしないようですね(笑)。ですから、小口契約者への対策は、基本契約料を一律2割減らす代わりにアンペアを減らす、ということをしたらいいと思うんですよ。つまり、家庭とかだと今、40アンペアや50アンペアが標準ですよね?この40アンペアを30アンペアにするとか、50アンペアを40アンペアに減らす、という風にするとピークが2割ほど減ると思われます。そうするといま東電管内にある家庭分の1500万キロワットが、一気に300万キロワットまで落ちる計算になるんです。
小林 それくらいアンペアが減ってもそんなに困らないけど、ブレーカーをとばしたくはないから、使う電気量を押さえる工夫はしますよね。

飯田 そうそう。例えば、電子レンジとオーブントースターとヘアドライヤーなど、電力消費量の大きい機器を同時に使うとブレーカーが落ちちゃうかもしれないけど、冷蔵庫やパソコンくらいなら大丈夫ですから。その一番電気を食うものを同時に使わなければ問題ないですよ、というようなことも一緒に伝えてあげればね。

小林 なるほどね。

飯田 この対策を一気にやれば、この夏も計画停電なしにクリアできますし、企業活動やライフラインにも影響がない。

小林 アンペアを減らして、最終的に僕らが使う電力が減って......。まあ、パッと聞いてもそれは飲み込みやすいことのような気がしますよね。
で、計画停電も、1グループから5グループまでやってさらにゾーン分けして、みたいな、旧ソ連みたいなところがあるからね。不平不満が出てきたり、こっちのグループばかりがなんで、とか、都心はどうしてやらないんだみたいなね。そういうことは、なくなりそうですよね。

飯田 そうですね。みんなの自発的な節電と、契約に基づく節電ですから。まったく問題なくできるわけですね。

小林 短期の問題としては、原発をすぐになんとかしなくても......。

飯田 今年の夏を乗り切れば、同じ対策で数年は大丈夫ということになりますよね。ただし今は火力発電を目一杯使っているのでCO2の問題と、それから、エネルギーコストの問題という2つの問題があって。特に今、原油も石炭も、ただでさえ上がり気味だったのに、これで世界的に原子力が減っていくとなると、ますます原油と石炭は、投機マネーで高騰していくことが予想されます。
10年後、50年後を見据えると、大胆なエネルギーシフトを加速していくということが必要だと思うんですね。

小林 化石燃料を少しずつ減らして、ということですよね。この、ISEPの資料(下の「中長期的な電力シフトイメージ」)の図に書いてあるのは、天然ガスは同じような幅で作っていってよしと。で、石炭はどんどん減らしていこう、原子力はもちろん減らしていこう......。

緊急会議 飯田哲也×小林武史 (3) 「僕らは今、何をすればいい?」

(資料提供:環境エネルギー政策研究所)

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飯田 そう、勝手に減っちゃうんですよ(笑)。老朽化しているので。

小林 これに任せておこう、というわけね。本当に危ない浜岡とかはもうやめて......。

飯田 そう。一旦止めてもらってね。

小林 ほかも老朽化に合わせて無くして、新しいものは作るのをやめよう、というわけですよね。それで自然エネルギーを少しずつ......。

飯田 まず省エネ・節電をあと10年で20%、これを我慢の節電ではなくて、問題のない快適な節電でやっていこうと。

小林 快適な節電というのは、さっき話していたこと以外にどういう手があるんですか?
飯田 一番大きいのは、暖房とか給湯で、電気を使っているものをできるだけガスとか、さらには自然エネルギーに代えるということですね。電気で熱を作るのは、昔から省エネルギーの天才といわれたエイモリー・ロビンスが、「電気ノコギリでバターを切る」と表現しているんですね。それはそもそも、電気を作るときに、火力発電所では、熱エネルギーの4割を電気として取り出すのがやっとで、残りの6割が利用されずに捨てられているわけです。そこからまた熱を作るというのは無駄ですよね。 特に効率が悪いのはお湯と暖房。エアコンはまだ効率がいいんですけど、電気のヒーター型の床暖房とか電気ヒーターは正直効率がよくない。もっと専門的なことをいうと、エアコンの暖房というのは生理的には人間にとってあんまりよくないんですね。輻射(ふくしゃ)暖房といって、壁の面とかあるいはストーブから直接あたる熱のほうが、原理的にも快適性も非常にいいんです。

小林 それ、なんだかわかります。
飯田 で、ヒーター型じゃないお湯の床暖房はそれに加えて、接触暖房(足の裏だけ温かいなどの接触面からの暖房)もあるので、非常に快適なんですよ。

小林 僕もエアコンの暖房、部屋で使わないもん。なんかいやなんですよね。

飯田 エアコン暖房って、断熱がちゃんとできていない住宅だと、原理的に不快なんですよ。たとえば壁が冷たくて、空気だけ温めてるエアコンの部屋があるとすると、空気から自分の身体を温めるというのは熱伝導があまりよくないので、身体がなかなか温まらないんですよ。その上、壁が冷たいと自分の身体から、輻射熱という原理で、どんどん熱が逃げていくんです。つまり、自分の周りには生ぬるい空気があるが、自分からは熱が逃げていくという、得も言われぬ不快な温熱空間がそこには出来上がるんですよ。

小林 なんか分かる、それ。息苦しい感じがあるんですよね。エアコンって。
飯田 輻射熱とは、絶対温度の4乗の差で熱が真空中を伝わるというものです。ですから輻射暖房だと、自分の体が冷たいときには温かい薪ストーブやお湯のパネルヒーターなどから自分の身体にわーっと熱が入ってきて、身体が温まって温度差がなくなると熱が入ってこなくなるんですよ。そこが快適なんですね。だからヨーロッパの住宅とかは輻射暖房しか使ってないですよ。細かい話ですけど(笑)。

小林 でもものすごい生活に密着した話ですよ。本日もっとも日常生活に密着した話だよね(笑)。で、話を戻して、省エネね。

飯田 そうですね。そうやって節電をしていって、あとはもう電気の効率を高めた商品にどんどん切り替えていくことですね。
飯田哲也
飯田哲也
環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長。

京都大学原子核工学専攻修了。企業や電力関連研究機関で原子力研究開発に従事した経歴を持つ。その後、スウェーデンのルンド大学客員研究員などを経て、現在は持続可能なエネルギー政策の実現を目的とするISEPの代表を務めつつ、複数の環境NGOを主宰。『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論)、『グリーン・ニューディール―環境投資は世界経済を救えるか』(NHK出版)など、著書・共著も多数ある自然エネルギー政策の第一人者。

環境エネルギー政策研究所(ISEP)
http://www.isep.or.jp/

(情報・資料提供/環境エネルギー政策研究所、撮影・取材・文/編集部)

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