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緊急会議 田中優×小林武史 (2) 「新しいエネルギーの未来」

緊急会議 田中優×小林武史 (2) 「新しいエネルギーの未来」

これまでの体制が崩れてしまった今、必要なのは"元通り"にすることではなく、"よりよい仕組みを作る"こと。実は、日本にはたくさんの新しい技術が生まれている。明るい未来に向かうには、どんな道を選べばいいのか?

updata:2011.03.19

みんなが「なるほど」と思える仕組みにしよう

情報鎖国にしてはならない

緊急会議 田中優×小林武史 (2) 「新しいエネルギーの未来」
田中 実は家庭の電気料金というのは省エネを進めるために、使うにつれて単価そのものが高くなるようになっているんです。それに対して、事業系の電気料金は使えば使うほど安くなる。だから、省エネしても事業者は得にならない。これを家庭と同じ設定にしてくれれば、企業はたちどころに省エネに取り組みます。確実に3割は変わってくるでしょう。日本全体の電力の4分の3は企業が使っているので、それが3割減ったら、発電所も直ちに4分の1は止めることができる。つまり、全体の22%ほどである原子力発電所はすべて止めても問題はなくなるんです。

小林 そうか、なるほどね。

田中 でも、なぜそうならないかと言うと、ここでも電力会社は鉄壁の体制を作りたがったんだよね。各地域の経団連の代表というのは、全部電気会社の代表なんです。なぜなら、電力会社が「ここに発電所を作りましょう」というと、5000億円ほどのお金が動くわけ。それで「君のところに頼もうかな」と言えば、ゼネコンが儲かる。しかもそのお金は、実はかかった費用に3.5%上乗せして、みんなの電気料金からとってもいいことになってるの。だから、お金をかければかけれるほど利益が大きく出るという構造になってしまっている。
パブリックアクセプタンス(PA)と言うんだけれど、テレビコマーシャルなどで「原発はいいものだよ」とPRするたびに、それも経費として3.5%利益としてとれる。 その結果、あらゆるメディアは電力会社にビビって、電力会社の意向に逆らうことだけは言えなくなった。それで情報鎖国ができちゃったわけ。日本だけは異常な常識が通る。世界で一番安いのは自然エネルギーなのに、日本でだけは自然エネルギーが高いと教わっていてさ。そういう仕組を作ってしまったのは、お金の流れなんだよね。

小林 国は経済を押し上げる方向でずっと来ていたし、高度経済成長時にできあがってしまったかたちなんだろうけれど。今は物を大量に作って消費していくというスパイラル自体が壊れようとしていて、僕らも、人間としての幸せってなんだろうねって一人ひとりが考えだして問い直そうとしているときに、視点が個人に向いていない制度という感じがしますよね。これをやっぱり変えていかなくてはいけない。というわけで、ここから優さんとの緊急会議・第二部になるんだけれども(笑)
蓄電ができれば、電力会社や国にあまり頼らなくてもエネルギー共有を作り出せるということですよね? そういう未来の可能性というのは?
田中 まず、スマートグリッド(賢い送電網)と呼ばれる仕組みがあります。どういうものかというと、テトリスってゲームありますよね。長い形が出てきたら隙間に入れて、全部並ぶとパッと消える。あれと同じで、こちら側に自然エネルギーの電気がきて、あちら側に必要としている人がいる。それをインターネットの回線で、瞬時に合わせていっちゃうわけ。
そうすると、すごく狭い範囲でも電気をきれいにまとめていくことができるようになる。これがスマートグリッドの仕組みで、アメリカやヨーロッパで進めているのね。 でも日本が進めていた東京電力のスマートグリッドは、なんとそのデータをとるのが30分に1回だけ。
瞬時に消さなくちゃいけないのに、30分に1回のデータを持ってきて、何ができるのか。もしスマートグリッドができるとどうなるかというと、地域の中だけで電気は足りるようになってくる。なぜかというと、今4人で暮らしている家族の場合、どれくらいの発電所が必要になるか。省エネ製品に取り換えた後では、太陽光発電で、8畳間の大きさの太陽光パネル1枚で足りてしまうんですよ。ところが太陽光は、昼間に発電しても夜間は発電できない。けれど家庭というのは、昼間あまり電気を使わなくて夜に使うんですよ。その時間のズレにバッテリーを入れておければ、プールしておいて夜になったらそれを使うことができるわけです。今は電気自動車が発達してきたので、そのバッテリーをそのまま利用することができる。
小林 以前、優さんと一緒に、ス-パーキャパシタという優れた蓄電技術をもった商品を見にいきましたよね。

田中 あれももう10年近く前だもんね。スーパーキャパシタの中身に使っているのは、炭と水とアルミで超ローテク。しかも有害物質は一切使わずに、大量生産するとめちゃくちゃに値段が下がるんですよ。アルミも地球に4番目に多い物質でどこにでもあるものだから。実はもう、そういう商品ができているんだよ。ところが今の日本のやり方は、突然に優れた技術がでてくると儲けが減るじゃない。
小林 段階的に成長していったほうが、会社として利益が出るというね。

田中 昔、某企業が凄まじく優れたデジカメを出しちゃったんだよね。みんなが何千画素とかいっているときに何十万画素みたいなのを。でも、すぐに消されたんだよ(笑)。あんまり突然に優れたものが出てきてしまうと、それに並ばなくてはいけなくなるから業界全体の利益が減ってしまう。だからそれをたたき潰して、みんなでずっと利益を出しましょうと。例えば、バッテリーもメーカーがあるわけだから、バッテリーなんていらなくなるスーパーキャパシタのようなものが出てきてしまうと困るわけ。
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経済の仕組みをシフトする

小林 経済の仕組みというのは、謀略というか本来の顔とは違う、欺きながらマーケットを作っている部分はありますからね。それはみんな知っていることだと思うけれど。本当はもうできているけれど今はこっちを買ってもらって、という。資本主義の構造って、もう出来ているのであればそっちを買ったほうがいいんだけれど、無駄な消費をしないと経済がうまく回らない、という暗黙の了解的な動きがあったりするんですよね。

田中 だけれど、それが膨大な無駄を作ってきたわけだよね。

小林 『誰が電気自動車を殺したか?』という映画もありましたよね。アメリカのGMが作った電気自動車が葬り去られていく過程をドキュメンタリーにしていたんだけれど。
石油会社がカルフォルニア州と共に後ろに付いていて。すばらしいっていうものも全部回収するんだよね。「なんでそんなことをするんだ?」ってみんなが見に行くんだけれど、その車を隠してしまって見せない。
田中 現実にたたき潰しちゃうんだよね。

小林 だけど、経済の効率を追求するという動き方は、なかなか、なくならないんですよね。

田中 効率で言えば、電気自動車は1キロ走って1円。今ガソリンは1リットル130円だから、130キロ走れる。僕の知人が屋久島に帰るときに電気自動車を買うことにしたの。それで未来バンクに融資を受けたいと申請して計算したら、ガソリン代が浮く分あっという間に元がとれちゃうことがわかったんだって。地方って交通機関がないから、すごく車を使わざるを得ないんだよね。電気自動車は購入するときは割高でも、ガソリン代が従来よりも安くなるからその分だけで返済できちゃう。

小林 電気自動車だってもうできるのに、なかなか広まらないものね。

田中 電気自動車が進んでしまうと困るから、エンジン部分だけを残したくて作ったのがハイブリッド自動車、とかね。
小林 もちろん、車関係で働いている人はいっぱいいるし、雇用の問題なんかを考えると、一概に一気にシフトするべきだとも言えないかもしれないけれど......。

田中 でもドイツは自然エネルギーを進めて、27万人の雇用を生み出している。それと、炭素税を導入したんです。その税の使い道は自然エネルギーだけではなくて、圧倒的に企業が負担していた年金の半額部分。そこに助成金として配ったんだよ。アルバイトは雇っていても助成金がとれないけれど、正社員ならばとれる。そしたら企業はみんな正社員に切り替えちゃった。それで25万人の雇用が増えたわけ。ドイツは日本の3分の2の人口だから日本の数字に直すと、トヨタ自動車グループの3倍分である78万人の雇用が増えているんですよ。だから、政策によって従来のものと切り替えていけば、自然エネルギーは規模も小さいから雇用者数も増えるんです。にも関わらず、コストは安いんです。

日本はスマートグリッド先進国

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小林 最近、風力発電に関しても、かなり否定的な人もいますよね。

田中 風力発電による低周波被害と、バードストライク(鳥がぶつかってしまう事故)なんかを理由にね。

小林 あと、風力発電の国の助成金をあてにして「実際に発電するかどうかは問題じゃないんだ」みたいな暴言をした人がいる、なんてことも含めて。真面目に考えている人までもが攻撃されている部分もありますよね。

田中 面白い話があるんですよ。秋田県のMECAROという会社が作ったスパイラルマグナスという風車は、普通なら3本の羽が、5本付いているの。その1本1本は丸い棒で表にスパイラルのようなものが付いていて、風が吹くと一方にだけカラカラ回ってカーブを投げたときと同じで羽全体が回転するんです。
それはゆっくり回るので、低周波も出ないし鳥がぶつかることもない。なおかつ、強い風にも強くて、NASAで実験したら風速50m/sの風に風車本体が耐えたそうです。(※注1

小林 それは、初めて聞いた。

田中 小規模な会社で、そこまで大量生産できる体制じゃないから価格は高いかもしれない。でも、とっても高いというほどでもない。もともと理論はドイツにあったんですけれど、実現したのは日本が最初。今の時点では中型ですけれど、大きくすればこれまでの風車と置き換えることもできます。それなら、従来の風力発電が持つ問題も解消できる。それともうひとつは、本当は風車を使うのに一番良いのは海の上なんですよ。何の抵抗もなくて風も強いから。ところが、日本は海がすぐに深くなっちゃうから風車を建てられないんだよね。
小林 浮かせる形もできるんじゃないかってことですよね。

田中 それを九州大学がもう作っているんです。それはカーボンファイバーというすごく軽い物質で作っていて水に浮くから、海の上に並べておくと勝手に発電して電気を送ってくれるという仕組み。日本は国土が狭いけれど、海の面積を入れれば12倍になるんですよ。そうすると、日本はすごく大きい国になれる。

小林 それは、漁業への影響はないんですか?

田中 今の電気をまかなうのに、そんなに本数はいらないからね。(3/29追記:一箇所に集めるのではなく、日本の周りの海、各所を利用すれば、漁業への影響がない方法も考えられるだろう、という意味。)東京電力が東京大学に委託して、関東地方沿岸50km以内に風車を建てたとしたら、どれだけ発電するかを調べたそうです。そうしたら出てきたデータが「2005年の東京電力の年間電力販売量とほぼ同じ電力を作れます」というものだった。(※注2
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小林 すごい。

田中 そうしたら東京電力は「そのデータは公表しないでください」と言ったらしい。だけど、インターネットに公表されていたのを僕は検索して見つけてさ。

小林 (笑)。

田中 もうひとつすごいのが、神戸大学大学院の先生が作ったものなんだけれど、波力(波の力)で発電する仕組みがあるんです。今までもあったんだけど、すごく複雑で大掛かりなものだった。 だけど神戸大学大学院の先生が作ったものは、たった9メートル×15メートルという小さな発電機を海に浮かべて回すだけで、45キロワットずつ発電するというものなんです。ジャイロというんだけど。世界で最もシンプルなもので、コストは安い、発電量は多いというもの。
小林 そういった技術をね、例えば、あるエリアでは当分これでやってみよう、このエリアではこれができるといいよね、と進めてみるとかね。そのうちでいくつかが実現に向かっていけば、開発する側のモチベーションもあがって今よりもっといいものがまた生まれていくだろうし。でも今は風力発電の技術が進んだとしても、送電線の問題で、利用するまでの道筋がまた難しいわけだ。だから、送電線を国に買い取ってもらって、開放させたい、ということになるわけだよね。

田中 そういうわけです。スマートグリッドを進めていくのに必要なのはね、まず自然エネルギー。これは実は世界の中でも日本がトップの技術を持っている。その次にバッテリー。これも日本が世界でトップですよ。次は電気自動車。これも実は日本で開発されているものが、世界一効率がいいと言われている。あとはIT。これも日本が得意なジャンルじゃない。
で、もうひとつは省エネ。ここに関しても実は日本がいちばんなの。電力会社が邪魔していて伸びることができなかっただけで、電力会社をよっこらしょってどけることができたら、スマートグリッドを世界一、進めることができるのは、実は日本なんだよね。

小林 今回の出来事で、今までの体制に風穴は空きそうですよね。僕がSalyuに書いた曲じゃないけれど、ここからは「新しいYES」を選ぶ時代にシフトするんじゃないでしょうか。いままでのやり方を一気に否定してしまうのではなくてね。僕らができることは、みんなが「なるほどな」って思えるところにもうちょっと近づく助けになるようなことかと。他にも人を集ってね。優さん、引き続きこれからもよろしくお願いします。
――対談を終えて――

福島原発で復旧作業をされているのは
東京電力の人たちだと思うので、
いまこんな時期に損害賠償とか担保だとか
そういった話をするのは少々きついなと思いました。

ですが、今回こんな事態を招いてしまったのは
国家であり国民でもあると思うけれども、
その先に電力会社があるのは間違いないことなので、
公的な領域(つまり国)に送電線を返して欲しいという思いは
対談を終えてより強くなりました。

今後も返せないということならば、
どういう理由なのか探ってみたいです。

小林武史
田中優
田中優
「未来バンク事業組合」理事長。

地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などに取り組むさまざまなNGO活動に関わる。「日本国際ボランティアセンター」「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表も務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院の非常勤講師。著書(共著含む)に『環境破壊のメカニズム』(北斗出版)、『戦争をやめさせ環境破壊をくいとめる新しい社会のつくり方』、『世界から貧しさをなくす30の方法』(以上、合同出版)、『ヤマダ電機で電気自動車(クルマ)を買おう』(ランダムハウ ス)ほか多数。最新刊は『幸せを届けるボランティア 不幸を招くボランティア』(河出書房新社)。

田中優の'維持する志'
http://tanakayu.blogspot.com/

(撮影・取材・文/編集部)

お詫びと訂正

注1:記事掲載時、本文にてスパイラルマグナスについて「風速50mでも発電した」と記載しておりましたが、正しくは、「風速50m/sの風に風車本体が耐えた」(風車は回転させておらず、本体が強風に耐えた)というものだったため訂正させていただきました。

注2:本文にて、「犬吠崎の沖合に風車を建てたとしたら」と記載しておりましたが、正確には「関東地方沿岸50km以内に風車を建てたとしたら」というものであったため、ここに関する内容を訂正させていただきました。

以上、修正内容につきましてはすべて田中優氏に確認のうえ、対応させていただきました。
ご迷惑をおかけしました読者のみなさま、ならびに、関係者のみなさまには深くお詫び申し上げます。
たくさんのご意見、ご指摘をいただき、ありがとうございました。

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