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小林武史 × フラワーカンパニーズ

小林武史 × フラワーカンパニーズ

結成21年を迎えたバンド、フラワーカンパニーズ。ap bank fes’10での、彼らの真に迫るパフォーマンスに心を震わせたという、小林武史との対談がここに実現した。ライブ・バンド、そしてプロデューサーとして音楽と長年向き合ってきたそれぞれの立場から、これからの日本のバンドが向かうべき道について考える。

updata:2010.10.17

第2回 二極化していく、今の音楽産業

小林 ここで全てを言うのは複雑なほどのバランスだと思います。そういうことが起こり得るというのが、バンドのマジックなんだけれど。そういうやり方を曽我部(恵一)君が、何年か前からやっているというのは聞いていたのだけれど、フラワーカンパニーズ以外で、ブッキングを自分たちでやるバンドというのは結構いる?

グレート 最近は多いですね、SCOOBIE DOとか。

鈴木 eastern youthもそうですし。僕らを含めてみんな似たような境遇で、30歳くらいで契約をきられてしまうんですよ。でも、もし辞めるとしてもこのタイミングでは絶対に辞めたくない。別にデビューしたいがためにバンドを始めたわけじゃないから、契約がきれたから辞めるというのは一番カッコ悪いパターンだなと思って。もちろん、そういう選択もあるとは思うんですけれど、自分には辞めるならこのタイミングだけは持ちこたえて巻き返してから辞めるんだ、という意地もあって。

小林 そうだよね。僕の周りでも辞めていったバンドはいっぱいいるけれど。でも、契約を切られても残って、それから10年もやっているバンドってそう多くはないでしょ?

小林武史 × フラワーカンパニーズ
小林武史 × フラワーカンパニーズ

グレート そうですね。ただ、前よりも増えている感じはあります。

鈴木 ここ10年くらいで、アメリカのインディーバンドがそこまで売れていなくても、メジャー流通ではなくてライブハウスを回りながら食えているという話があって。それは、20年前の日本だったらあり得なかったと思うんですね。でも、ここ12~3年で日本も変わってきたのかなと思います。ライブだけで食うに困らないだけ稼いでいるバンドが、若い子でも増えていますね。

小林 ちなみに県庁所在地だけではなくて、もう少し小さな街のライブハウスも回るの?

グレート ありますね。「あの街はすごく小さいけれど、意外に人が来るよ」とか「店長が熱くて、お客さん呼んでくれるよ」というような噂を友達から聞くんですね。それで実際に行ってみると、「確かにここはお客さんのノリがすごい!」というようなことがあって。そこからまた新たな付き合いができるんです。

鈴木 それこそ、お客さんの数が30人くらいのときもあります。でも、ベタですけどお客さんの目の輝きをみると、やっぱりこっちは燃えちゃうというか。人数は関係なくなってしまうんですよね。
小林 もちろんいいイベンターもいるけれど、地方が東京のミニチュア版みたいになってきている傾向がある。どこでもチケットが買えるようになって、東京公演のチケットを取れなかった人が地方にライブを観に行くようになったりしてね。それに対して、地方の小さな会館が直接声を掛けてくれることもあるんですよ。そういうところって実は意識が高くて。いわゆるメジャー流通とは違ったアクをもった人間らしさがあって、そこから実りのある文化が流れ出していることを感じるんです。大都市は若くて売れているものを追いかけるところが多いけれど、味があるものが地方の小さなライブハウスや会館に芽吹きだしているというのは面白い傾向だな、と思うんだよね。

鈴木 それはすごく感じますね。僕らは名古屋出身なんですが、15年くらい前までは東京に行かないとどうにもならないという絶対的な意識があったんです。でも今は、「僕ら、大阪に住んでます」というバンドでも、ガンガンライブをやって東京のバンドと変わらないくらいの動員を入れることができている。東京に出てこなくても、地方なりのプライドを持ってやっていて面白いなって思いますね。

小林 そうなんだよな。僕らもap bankなどで、地方の活性化について考えているんだけれど。日本で生まれたロックにもすでにある程度、歴史ができてきているから、今の若い子がそこから何かを掘り下げて探ることも随分やりやすくなっているし。東京で売れる、というラインに乗っかるのはもう違うというかね。

鈴木 そうですね。若干変わってきているかもしれないですね。

小林 最近のK-POPもすごい。簡単にいうと、エンタテインメントというのはああいう傾向なんだよね。別に批判しているわけじゃないけれど、大手のレコード会社やプロダクションが上場しているというのは、つまり子供をスターにしたい親にとっては、すごく分かりやすくて安心な会社になるってこと。悪いことではないかもしれないけれど、子供の養成をしてダンスして、というのは、いい大学に入っていい会社に入る、というエリートを作ることに似てきていると思うんです。僕は普通に外で遊んだり、バンドやったりする方が千倍くらい面白いと思うけれど。

グレート そうですよね。その方が魅力もあると思いますよ。
小林武史 × フラワーカンパニーズ

小林 そんな男のほうに、女の子もキュンときていたと思うし。今、この社会で生きていくための処世として、エンタテインメントがエリート化みたいなものに組み込まれてしまっている気がする。僕には、訓練すればうまくなるという結果だけを見て、100点満点の90点を感心することが分からないんだよね。 それと比べるのもおこがましいけれど、フラワーカンパニーズは今の世界的なエンタテインメントの流通からは、なかなか出てこないものを持っていますよ。足を使って自分たちで切り拓いていくことは本当にすごい。日本のなかでもそういう人たちが増えたら、「またフラワーカンパニーズが来るんだったら、ライブに行かなくちゃ!」っていう循環ができるし。まぁ、少女時代が出ていると、僕も「ほーっ!」って見ちゃうけどね(笑)。

鈴木 確かに(笑)。

グレート いろんな人がいていいと思うんですけれど、俺らは俺らのやれることしかできないので。今は自分たちのやりたいこととできることが一致しているというか、「これくらいならできるだろう」ということができているから、続けられているんだと思います。
小林武史 × フラワーカンパニーズ 鈴木 イオンみたいな総合スーパーが少女時代ならば、僕らはその辺の八百屋さんというか。

グレート 個人商店ですね。

小林 トラックを使って色んな場所に売りにいくとかね。ap bank fesはああいう大きい規模でやっているけれど、Mr.Childrenなりに丁寧にやってきていることを評価してくれているお客さんに、フラワーカンパニーズはドンズバで届いていたというのがね。

グレート (笑)。届きましたかね?

小林 いや、届いていますよ。ライブはいつごろから年間100本もやっているんですか?

グレート ここ5、6年くらいですかね。

小林 3日に1本くらいのペースで?

グレート そうですね。

小林 東京にいるのは半分くらい?

鈴木 はい。車の移動が一番長いので。

グレート 遠いところだと、大体前乗りですし。
小林 たしか、曽我部君が言っていたんだと思うけれど、地方に行くときは早く着くと自分たちでチケットを売ったり、ライブの宣伝をしたりするって。フラワーカンパニーズも、そういうことをするの?

グレート 俺らは無理だと思うからやらないですけれど、曽我部君は何回かやったことあるみたいですね。駅前で「明日はライブやりまーす!」っていうのを。実際に、2人くらい観に来たって言ってましたけど。でも2人だって来たらすごいですよね(笑)。

鈴木 彼はそういう意味では、本当にすごいんですよ。

小林 頭がいいもんね。彼は、経営もレーベルも運営しているよね。若いアーティストとかもやっているんだっけ?

グレート はい。だから僕らよりも仕事量は全然多いと思いますよ。

小林 そういう下の世代との繋がりも大事だよね。でも、それが今度は大きくなりすぎると身動きが取れなくなっちゃうから、そこが微妙なところなんだよ(笑)。僕も、ものすごくデカくて身動きが取れなくなっちゃう状況だけは、いままで避けきたからなぁ。

鈴木 あれだけビッグバンドになっていても?

小林 社員が増えすぎてがんじがらめになるようことはいまだにないですね。最近はap bankやkurkkuもあるけれど、それはまた違うから。こうみえても、自分の中ではっきりやるべきだと思うことしかやってないから、やることが増えても混乱したり嫌になったりすることはなくて。少しやりながら、まだ完全じゃないから「こういうふうにすると横の繋がりができて更にやる意義があるんじゃないか」みたいなアイデアはでてくるんだよね。それをしばらく検証して、ちょっとだけ走らせてみて。やっぱり時期尚早かな、ということもありますけどね。

グレート そういうことは、ちょっとでもやってみないと分からないですよね。それでダメだったら、手を引くというか。レベルは全然違いますけれど、それは僕らも分かりますね。

小林 もうちょっとしたらね、フラワーカンパニーズもバンドだけじゃなくて、下の世代との横の繋がりでの役回りもでてくる気がしますけどね。多分、今の若いバンドとかもそれを感じているんじゃないかな。
フラワーカンパニーズ
フラワーカンパニーズ

89年、名古屋にて同じ中学・高校だった鈴木圭介(Vo)、グレートマエカワ(B)、竹安堅一(G)、ミスター小西(Dr)の4人で結成。95年メジャーデビュー。2001年にメジャーを離れて活動を模索する中、ライブに開眼。自らのレーベル「Trash Records」からリリースを重ねつつ、年間100本を越えるライブを行う。2008年には、ソニー ミュージック・アソシエイテッド・レコードと契約してメジャー復帰。今年11月3日(水)には13枚目のアルバム「チェスト!チェスト!チェスト!」をリリース、また10月〜来年1月にかけて全国ツアーを開催するなど、結成21年目にしてなお快進撃を続けるスーパーバンド。
http://www.flowercompanyz.com/

(撮影/今津聡子 構成/編集部)

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