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小林武史 × ナオト・インティライミ

小林武史 × ナオト・インティライミ

この十年で、“音楽”は“鑑賞対象”から“コミュニケーション・ツール”へと変化してきているのではないだろうか?
「孤独」「断絶」などが社会問題として叫ばれる中で、これからの日本のコミュニケーションはどこへ向かっていくのか――。
単身で世界数十カ国を渡り歩き、各地でさまざまな人と出会い、人種も言葉も文化も宗教も飛び越えて音楽を鳴らしてきたという類い稀なるコミュニケーション力を持つナオト・インティライミの経験をヒントに、小林武史が読み解きます。

updata:2010.07.07

第2回 多様化していくコミュニケーション・ツール

小林 音楽をコミュニケーション・ツールと言ってしまうのって、いい部分もそうではない部分もあるとは思うんだけど。音楽って、ノレるとか泣けるとか感動するっていうだけのものじゃなくて、"この音楽って優れているな"とか、"ある領域を開いていったな"っていうものを聴きたいという気持ちを持ったり、そういうものを目指して作るって言うのが、あってしかるべきだとは思ってるのね。

小林武史 × ナオト・インティライミ
小林 もちろん、伝え手がいて、聴き手がいてっていう双方の関係があるんだけれども、音楽が音楽である可能性は必要だと思ってる。もちろんそこにはコミュニケーションを取る道具としての可能性はあるんだけど、そんなところとは関係ないところに音楽は存在しているなっていう思い、そうあってほしいという思いが僕にはある。

―― コミュニケーションを取るためだけの道具ではなく、もっと個人的な......、自分のためだけの個の音楽という存在もある。

小林 今のマンガ系や小説系の映画だと、まずマンガや小説で原作を知っていたり、これが映画化されるとどうなるんだ?っていうので、まずみんなでわいわい言って、実際その映画を観に行った後も、ああだこうだと言いあって......。それがコミュニケーションの道具として成立してるじゃない? 映画の内容の良いも悪いも、面白かったも面白くなかったも、コミュニケーションの道具になっている。

ナオト 周りがいいって言ってるから、観にいってみたっていう参加の仕方もあるし。
小林 話題になってるから行ってみようかっていう、その段階からコミュニケーション・ツールになっている。良くも悪くもそれがコミュニケーションっていう、ね。でも、そういう話題とか噂とか、全くそういうのに関係のない映画や音楽もある。本来、音楽っていうのは、ひとりで聴いて、自分の中の判断はどうだ、好きか嫌いかっていうところがあった。僕の若い時代ってね、誰々のファンだっていうのがあまりない時代だったのね。誰々のファンだからその人の音楽をずっと聴き続けて追っていくっていうのがなかった。今回の作品はいいけど、でも次はどうだっていう、優れている音楽を探していくって感じだったんですよ。

ナオト 僕も同感ですね。この人に憧れて、その人を追っていくっていう感じではなかった。あの人のあの音楽のココが好きとか、この人のあの部分は好きだけど、あそこはそんなに好きじゃないかもっていう聴き方、受け止め方をしてました。

小林 もしかしたら、プロになろうとする人は違うのかもしれないね。90年代にあれだけたくさん音楽が多くの人たちに聴かれていたっていうのは、音楽シーン自体がコミュニケーション・ツールだったんだろうね。
小林 みんながチャートをチェックして、それが話題になって、CDを貸し借りして、音楽誌をあれこれ読んで、さぁ来週のチャートはどうなるんだ的な、ね。その範囲が、音楽を昔から好きで聴いていた人たちだけに限らなくなって、それこそ学生たちから子供から仕事している人から、凄い広い層に広がった。

―― なぜ、この10年でこんなに音楽が聴かれなくなってしまったんでしょう。

小林 他の要素がたくさん出てきたっていうのが大きいだろうね。ケイタイが普及して、コミュニケーションできる手段が多岐に及んだって言うのもあるだろうし。(映画監督の)岩井俊二くんとも話してたんだけど、音楽のフォーマットが出尽くしてきて、売り上げが止まってくると、あまり冒険ができなくなってくるんですよ。保守的なものに賭けていくっていう傾向になってくる。で、みんなが冒険をしなくなってくると、音楽シーン全体がつまんなくなってくるわけ。
ナオト みんな、忙しいんだと思うんです。 若い子たちも大人たちもみんな忙しいんじゃないですかね。昔はね、電車の中って本を読むか、通勤通学の1時間で1枚分のアルバムが聴けたりしたんだけど、今はケイタイでメールは打たなきゃいけない、返信もしなきゃいけない、ツイッターもチェックしなくちゃって、やることがいっぱいあるから、電車の中でさえ忙しい。ま、それは自分からも発信することがあって、受け身だけではなくなったっていうのもあるんでしょうけど。コミュニケーション・ツールが増え過ぎると、いちいちそれに応じていると忙しいったらありゃしないっていいう(苦笑)。旅をしている中で思ったのは、音楽が生活のすぐそこにある国と、ちょっと頑張って自分から動かないと音楽に出会えない国に大きく分かれてるんだな、と。いろんな情報やエンターテインメントには溢れていないけれど、音楽の価値が高かったり、音楽が生活に根付いていて、文化として認められている場所や国では、それこそ暇だから何する? 歌でも歌うか!っていうのが、普通の生活の中で普通に行われている。彼らにとってはすぐそこに音楽があるんですよね。

小林 子供たちって、兄弟(姉妹)や友達と同じような部分で大きくなっていくっていうところがあって......。たとえば、10代の女の子たちが誰かを好きになったりなられたりして、そこでちっちゃく傷ついたり、些細なことで大きな幸せを感じちゃう時にハマる音楽ってあると思うわけ。で、その子たちは音楽の使い方もわかってるんだよね。"そういう時にはこの曲"っていうのを持っている。友達に薦める時も、こういう感じの曲っていう説明が今の子の方が上手いような気がするわけ。"ほら、誰々の何々でこういうのがあったじゃん、あんな感じ......"って。でも、音楽と向き合う、音楽の中を旅する感覚、音楽で経験するっていうのは、かつてはいっぱいあったんだよ。本当は経験していくもの、体現していくものなの、音楽って。で、アルバムっていうのは、そういうトリップ感っていうものがあり得るから、アルバムを作っているアーティストは、1曲1曲の流れを考えて行くんだと思う。
小林武史 × ナオト・インティライミ
ナオト・インティライミ
ナオト・インティライミ

三重県生まれ、千葉県育ち。世界一周28カ国を515日間かけて一人で渡り歩きながら各地でライブ を行い、世界の音楽と文化を体感。『インティ ライミ』とは南米インカの言葉で『太陽の祭り』を意味する。ソロ活動の他、コーラス&ギターとしてMr.Childrenツアーのサポートメン バーに抜擢され、全国アリーナツアーや5大ドームツアー(全45万人動員)にも帯同するなど、その活動の幅を拡げ、飛躍的に知名度を上げている。今年4 月、UNIVERSAL MUSIC/UNIVERSAL SIGMAよりメジャーデビューシングル「カーニバる?」を、5月にセカンドシングル「タカラモノ〜この声がなくなるまで〜」を2ヶ月連続でリリース。7 月7日には、待望のファーストアルバム『Shall we travel??』をリリースされた。9月からは待望の全国ツアーの開催も決定。
http://www.nananaoto.com/

(撮影/今津聡子 取材・構成/松浦靖恵)

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