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小林武史 × 伊勢谷友介
俳優として活躍する一方で、仲間たちと「リバースプロジェクト」という活動をしている伊勢谷友介さん。
「環境を考えることは新しいモラルを模索すること」という伊勢谷さんが考える、モデルケースとしての「村」とは?
updata:2009.12.12
第6回 新しいスタンダードを
伊勢谷 商品だったら、たとえば「たまごっち」のように、ある時期に集中してヒットするものでもいいけれど、僕らがしているのは生活じゃないですか。生活は継続するものが基本だと思うんです。
きちんとした社会のシステムを作ること自体が作品なんじゃないか。それがスタンダードになっていかなくてはならない。そのためには、なにより継続なんだと思うんですよ。だから、継続、と僕は言ったんです。流行じゃダメですもんね。
小林 自由経済社会というものが、どうしても富と権力に寄る構造になってきてしまっていたから、どうやったって行き詰まってきているでしょ。そこになにがしかのルールが必要だし、僕らのイメージの持ち方が進化していかなくてはならない段階に来ていたんだと思うんですよ。
搾取する側、される側みたいな構図じゃないのは、世界中の人々がだいぶ分かってきたんだけれど。日本だと「会社の経営者側から搾取されっぱなしだよ」みたいな意識はあまりないでしょう。経営する側も大変だし。分かってはいるんだけれど、システムというか物の考え方が「じゃあそれを良くしていこう」という方向の循環に、なかなかできない。そこを変えて行く前に、みんながぼんやりしてきて、思考停止が始まっちゃったんじゃないかな。
伊勢谷 萎えている感じがありますよね。
小林 そうなんだよね。「おーい、思考停止をするな!」と言いたい。思考停止しても面白くないから。「こういうことが本当に面白いってことなんだ」というのを見せていかなくちゃいけない。思考停止になるのは、大体が左脳的な、会社なりチームに入ってうまくやっていけばいいという迷信からきているわけ。
伊勢谷 大企業ならば安全、ということも、もう絶対にないですからね。
思考停止ではなく
小林 そう。だからエレベーターみたいに、「ここにいれば黙っていても上がって行くから」というシステムが、今や完全に止まってしまったわけだから。そこで「どうすればいいんだ?」と思考停止して、立ち止まってる人が多いんじゃないかな。
でも、「体を動かした方が面白い」ということだし。そもそも、生きることでも仕事でも、すべての目標は「チームの中でぎくしゃくしないでやっていくこと」ではないはずだから。実は社会にコミットして、そこに役立っていくことがすべての仕事の目的なんだよね。それを日本は小さな枠で作りすぎちゃったから、これを会社側が変えていけばいい。みんながその中でどういう仕事をできているか、ということが大事なんだから。
伊勢谷 僕が大学に入る頃の気分としては、「俺は歯車になりたくねえ」みたいな感じだったんですよ。それが最近、「お前、歯車一個なかったら全然動かないんだから、お前なんか歯車にもなってねぇよ。考えるんだったら、ちゃんと歯車になってシステムとしてきちんと回していかなくては」って、すごく思うようになりましたね。年を取ってきて(笑)。
逆に、「俺は歯車だ、酒を飲んでどうのこうの」みたいな哀愁になってたりするのも、すごく気持ち悪くて。あの昭和後期の感じが大嫌いなんですよ。「何を言っているんだ! 立ち上がれよ、まず」と。そこからじゃないと何も生まれないんだけど、立ち上がれなくなっちゃったのが、日本経済の結果だと思う。大企業のエレベーター式の構図ですよね。
小林 まあ、哀愁は哀愁でね。みんな年をとるからさ。意外と気持ちいいものなんだよ(笑)。
伊勢谷 語弊があったようで(笑)。
小林 伊勢谷くんだっていずれね、だんだんそういう酒がうまいと思うときが来るよ。親父たちが集まって、「いや~」っていって酒飲んで。だんだん錆びついてくるから、絶対に。
それを酒の肴にするのは、美味しいんだよね(笑)。
今、伊勢谷くんは何歳なの?
伊勢谷 33才ですね。
小林 33じゃ、まだだね(笑)。
伊勢谷 そうですね。酒もいかないですしね。
小林 あ、飲まないんだ?
伊勢谷 いや、飲みます。飲むときはガブガブ飲むんですけれど。逆に、普段はあまり飲まないですね。
小林 若い世代は飲まない子が多いよね。きっと、だいぶ自覚的なんだよね。
環境問題というモラル
伊勢谷 環境問題を新しいモラルとしてとらえるというのは、自分たちの環境に暴力をふるうようなことをすると後で自分の首を絞めることになる、といった意味です。人として、動物として生きる僕としては、存続することは自明のことだと思う。それが遺伝子に組み込まれているはずなんですけれど。
知識がないと、環境のことは考えていられないという部分もありますよね。今まではそうした問題について、成熟しきっていないかったから当たり前じゃなかった、と。それが、今度は隣の人を幸せにするように、環境についても一緒に考えながらやっていくのが新しい進化のかたちというか。教育を持った上での次のかたちがあるんじゃないかな、と僕は思うんです。
小林 僕もまったく同じように考えているんだけど。
環境、というと、すべてのことが出てくるから。いろんな問題が出てくると、「ものごとは繋がっているんだ」と思う。エネルギーだ、お金だ、って、それぞれが違うように見えるけれど、実はすべてが繋がっているんだ、ということ。銀行のことでも、何でもそう。
身近な環境を考えたときにも、もちろんCO2だけではなくて、水でも食料でもいろんなことが繋がっているのを踏まえていかないと。
それと、環境について考えていくとわかるけれど、アメリカと反アメリカ的なこともそうだけれど、ぶつかる前に『世界にひとつだけの花』じゃないけれど、多様性をどれだけ包容できるかということに尽きると思っているんだよね。
伊勢谷 環境運動に関してですか?
小林 未来のことも含めて。 ブッダは僕も大好きだけど、そもそも宗教も、人間のための宗教ですからね。本当は、ブッダは輪廻を繋がりを人間中心だとすら思っていないから。こういう僕らの命も含めて「全体の中のひとつなんだ」という考え方をするほうが、自分たちの人生も活かすことにもできるし。
だから、隣の人の幸せがうんぬんというのも、なかなかね。自分の欲望で生きているところもあるからさ。でも、その欲望の本質をもう少し見ていけばいいんじゃないかな。いずれ、伊勢谷君がブッダのようになるかもしれないけれど(笑)。僕も反欲望になっていくかもしれないしね(笑)、それは分からないけれど。俺は、あそこまでは......。
伊勢谷 僕だって無理ですよ(笑)。
小林 僕はこの人生では、ブッダの域には到底たどり着けない感じなだし、もうちょっと、ごつごつした欲望とぶつかりながら生きて行くことが、面白いと思っているんだよね。それからいろんな連中と刺激しながらやっていくのは、楽しいと思う。僕もロックをやっていますからね。音楽のガツンとぶつかる快感でやっているところもあるから。環境について悲観的になるのではなくて、僕らが生きている中の欲望も全部を含めて、何度もいうけれど、正直になって行動することなんじゃないかなと思う。
多様性をうけとめる
伊勢谷 小学校のときにリレーをやったら、「全員一位」はなしですよ。絶対に、優劣もあるし、それを含めての個性だと思うし、あとはどう受けとめて育てていくことじゃないですかね。まずは親も成長しなくては。
人の長所とか特技って、一次元的な考えだと、見えてこない。本人も気づいていなかったりするから、それをちゃんと見つけられる親じゃないと。そのためには親自身が、人のことを見ることができないと、導いてあげられないですからね。自分が親でもないのに、言ってしまっていますけれど。
僕は、母親が美術に導いてくれたのは、結果的によかったし、美大に入ってからは「自分のオリジナリティは何なの?」ということを、ずっと問われていましたから。一般的なことで言えば、とりあえずは能力できちんと評価をしてあげて、できたことを褒めてあげないと、突出していけないですよね。子供的にもモチベーションがあがらないでしょうし。
小林 今の傾向なんだろうね。ただ目立ちたいと思わないことが、捨てたもんでもないな、と思うこともあるけれど。 だとえばバンドをでも、今は「ギターソロをやりたい」と思うギタリストが少ないんだって。ギターソロで目立つんじゃなくて、バンドの中でひっそりといたい、みたいな。
ひっそりいたい、というのは、それで「バンドの中の一員でいれることが幸せ」みたいな感じで、「俺が俺が」というのが、特にない。でもね、それは自分たちの足下みたいなようなところで喜びを見いだせる、ということで、全体の中の一部であることだし。「それで十分幸せ」という感じかたをしている子が増えてきているとも思う。
別に「東京に行ってガーッと何かをしよう」ばかりじゃないんだよね。そんな歌もミスチルは歌っていて、『彩り』の「何かの歯車でもよくて、でも一所懸命やって庶民として生きていって。でも、それが僕なりの色であって」みたいな感じ。
でも、「それでいいんだ、僕の人生は」と思ったり、「そういうあなたが好きよ」という女の子が増えているのもあると思うけどね。
一方で僕たちのように、伊勢谷くんは役者をやりながら、僕はミュージシャンをやりながら、それにも飽き足らず「ああだこうだ」やって、しかも「作品」をつくったりする、こういう人間もいないとね。
伊勢谷 そうなんです。ついてくる人もついてこないし。ついていこうと思うことも個性だ、ってことですよね。
小林 実に想いを持ってやっている男に会った感じです。比較的若手の(笑)。
伊勢谷 もう、全然若手じゃないですよ(笑)!
小林 なんだか、いい役割をやってくれそうな感じがする。 ゆっくり話したのは、今日が初めてだからね。
伊勢谷 本当にそうです。
小林 結婚はしないの?
伊勢谷 僕は、「一生結婚するな」って言われるんですよ。
小林 良いことだね(笑)。
伊勢谷 でも、子供は欲しいんですけどね。
小林 そうそう。WOWWOWで映画の『ハチミツとクローバー』を観ていたら、やたらカッコいい男が出てきて、「あれ、誰だ?」って思って。前に会っていた、あのときの伊勢谷くんっていう人だとは分からなくて。もちろん、ハチクロや白洲次郎をやっていたのが伊勢谷くんっていうのは知ってたよ。あの人と会ったことがある、って、わかってなかった。最初にあるトークショーで会った時、すごく子供っぽく見えたんだよね。
伊勢谷 20代前半ですね。年とったんでしょう。たぶん。5年で、人って結構劣化しますよね(笑)。
小林 痛いところ突くね(笑)。
伊勢谷 もう5年したら、哀愁が(笑)。
小林 じゃあ、そんな感じで。じゃ、プライベートでも会おうね。
伊勢谷 よろしくお願いします。
伊勢谷友介
1976年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部 修士課程修了。大学在学中の1998年に「ワンダフルライフ」(是枝裕和監督)でデビュー。以後、映画、ドラマなどで幅広く活躍している。2002年には長編映画「カクト」で念願の監督業への進出も果たした。2008年からさまざまなジャンルで活動をおこなう、リバース・プロジェクトをスタート。志をともにするクリエイターとのプロジェクトを進めている。
リバース・プロジェクト
http://www.rebirth-project.jp/
(撮影/大城 亘 構成/編集部)