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小林武史 × 伊勢谷友介
俳優として活躍する一方で、仲間たちと「リバースプロジェクト」という活動をしている伊勢谷友介さん。
「環境を考えることは新しいモラルを模索すること」という伊勢谷さんが考える、モデルケースとしての「村」とは?
updata:2009.12.12
第5回 ガラス張りで見せていく
伊勢谷 概念的な話になってしまいますが、今の状況として、人間がどんどん増えていって、食料問題や水問題があるじゃないですか。
「そんなに増えなきゃいいのに」って思うけれど、でも増やしたのは僕らの責任でもある。
だからこそ人類がもう一歩、進まなければいけないと思っていて。それは、アフリカの人たちが子供を作るのが悪いのではなくて、お金を生んでいる人やシステムに問題があると僕は思うんです。
増えすぎれば何だって癌になりますから。その増えすぎた人間をコントロールできるくらいのモラルというか、そういうものが持てる教育がなくてはいけないと思うし。そこはすごく難しい部分ですね。
今までずっと巨大になること、増えることが良しとされてきたわけだから、人類が考えたことのない問題なんですよね。僕は、そういう意味で、今すごく大事な時期に来ていると思っています。
話は戻るのですが、なぜ村という最小の単位にこだわるのかというと、すごくシンプルに誰が生産者で誰が消費者か、そこで賄われていることが見えるのが大事だと思うからなんです。
小林 それは大事だよ。もしも九州や四国が独立国になったら、生きる喜びは増すに決まっていると思う(笑)。日本国はそれを許さないだろうけどね。
本当はそれくらい、実感がともなうシステムがいいと思うし、国家みたいな概念からだいぶ解放されて、循環されていくのがいいと思います。
東洋的な考えかたを
小林 生きているダイナミズムみたいなものも大事は大事なんだよ。環境問題も大事だけれど、同時に「やるぞ!」という気持ちも必要で。ただ男の悪いくせで「巨大なもの」という方向にいくと、とめどがないのが問題で(笑)。だから僕らも、僕らなりの東洋的な考えかたの中で、やっていくべきでね。
伊勢谷 そう! 中庸ですよね。
小林 知恵のある生活を選んでいくのがいいんだと。それを特に欧米に対しては示していかなくてはいけないことではあるけれど。
それと、昔は山岳地帯の使いかたが難しかったけれど、今は農業的なことも進歩しているみたいで、ずいぶん土地の有効利用ができるようになってきたし。みんなが都市部に集まることを望んでいるわけではないじゃない。
伊勢谷 その通りです。それは今まで地方の人が中央の都市に似せて、都市化してしまっているじゃないですか。そうするとどこを見ても同じだから、行く気にはならないんですよね。
どこにいっても魅力を感じていない。
小林 そう。あれも完全に疲弊化しちゃっているよね。
伊勢谷 だからリバースプロジェクトとしては、土地ごとの特色をきちんと反映させていきたいと思っていて。
小林 それは始まっているよね。商店街のような展開が無理だって、みんな分かっているんだよ。だからそれぞれの県なりの魅力を作ろうとしている人たちはいるよ。
伊勢谷 それがダイレクトに見えてくるような地図やガイドブックがあるといいですね。国内で旅行する気にならないんですよ。
なんだか、知った感じになっちゃって、「行ったところで都市部には駅ビルがあるし」みたいに思っているから。
どこかの商店街がお金を出し合って、昔の商店街に戻したらしいんですよ。そうしたら、観光バスまで止まるようになっちゃって、もう大騒ぎ、みたいな。
かと思うと、寂れた商店街にとりあえずデザイナーをいれたら、金だけ使ってデザインするものを作るだけ作って、でも人がこなくて閑散としたままのところもある。だから、本当に最終的な目的地をきちんと目指して、計画的にやらないと。ただ、格好いいモノを作ってどうにかなる時代ではないし。
小林 ガラス張りに正直に、っていう方向にいくしかない、って気づいている人は増えてきているからね。
幻影の時代のあとにくるもの
伊勢谷 僕が10代後半や20代のときにハマったのは、テクノだったりロックだったり、パンクだったりでした。ある種、スタイルだけでカッコいい、ってなるじゃないですか。ただ、行ってはみたんだけれど、僕らの先には何もなくて。今、生きている人たちの中で、尊敬できる人を探しても誰もいなかった時代だったんですね。
90年代にいろいろなことをやってみたんですけれど、その時代の幻影から冷めつつあって。要は、「お金を持っていればいい」という時代が、僕らが10代や20代を過ごしている世の中の見方だったんですよ。じゃあ今、俺らが大人になってどういう生き方を見せていけるのがよいのか、と考えたときに、昔は「カッコいい」というと排他的だったのが、「徹底的な善意がカッコいい」とされる時代が来るのではないかと。ブッタみたいな人が本当にカッコいいんじゃないかな、と思って。
小林 なるほどね。
伊勢谷 知識でも理解はしているけれど、いろんなことを感じて、人のために生きる、ということを馬鹿正直にやった人って、カッコいいんじゃないかな。
小林 伊勢谷君がそうなるのはいいんじゃない?
伊勢谷 (笑)。そこを頑張っていきたいし、そういう人が増えていったら、全然違うエネルギーが生まれていくのではないかと思います。希望的観測ではあるんですが、少なくとも今リバースプロジェクトのまわりに集まってくれている人たちは、そういう想いでいるし。
どこを目指していくか、と考えたときに「後輩に見られるだけの人にならなくては」という会社としてのプレッシャーは感じていますね。誰かが見て「そんな偽善的な」と言われることも気にしないし、そんな気持ちも全然ない。そこは馬鹿正直に、ガラスばりの中でパフォーマンスしていきたいんです。
小林 ぜひ僕らとも繋がって、一緒にやっていきましょうよ。
伊勢谷 お願いします。では、ap bank にぜひ融資を(笑)。小事業のプランをね。
伊勢谷友介
1976年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部 修士課程修了。大学在学中の1998年に「ワンダフルライフ」(是枝裕和監督)でデビュー。以後、映画、ドラマなどで幅広く活躍している。2002年には長編映画「カクト」で念願の監督業への進出も果たした。2008年からさまざまなジャンルで活動をおこなう、リバース・プロジェクトをスタート。志をともにするクリエイターとのプロジェクトを進めている。
リバース・プロジェクト
http://www.rebirth-project.jp/
(撮影/大城 亘 構成/編集部)