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小林武史 × 伊勢谷友介
俳優として活躍する一方で、仲間たちと「リバースプロジェクト」という活動をしている伊勢谷友介さん。
「環境を考えることは新しいモラルを模索すること」という伊勢谷さんが考える、モデルケースとしての「村」とは?
updata:2009.12.12
第2回 虚構とリアル
小林 すごく興味深いし、おもしろいね。 大学時代は映画を作りたかったと言っていたけれど、僕も映画監督をやってたんですよ。岩井俊二くんと共同プロデュースで、『BANDAGE』という音楽映画なんだけど。映画音楽もやって、監督もやっているんです。
伊勢谷 監督もなさったんですか?
小林 そうなんだ。
伊勢谷 僕らも最初、一作だけなんですけど、映画を作っていたんですよ。
その脚本の中で、リバースプロジェクトが生まれて、先にそっちが進行していたんです。
でも映画だと、虚構のなかで作品を観てもらうわけで、一週間たつと大概は忘れられちゃう。
とはいえ、少しは印象に残るから、その「少し」の中に、僕らは意味を持たせるべきなのかもしれないんだけど。そこから、いっそ本当に「リバースプロジェクト」を実質的な会社にして、現実にそこへリンクできるような、新しいアプローチができたらいいなと思ったんです。そうすることで、観客が入り込む余地を作ってあげられる。
だから、小林さんの逆ですね。ap bankをやってらっしゃって、映画を作られる小林さんと、映画をやっていて、逆にリアルな必要性を感じて実験に至っている僕は。
小林 なるほどね。僕はミスチルのツアーをずっとやっているけど、キーボードプレーヤーとして、ステージにあがったのは前回のツアーが初めてだったんだよ。
それまではキーボーディストとしてではなく、プロデューサーとして全体を見ているわけだから。
伊勢谷 裏方さんなんですね?
小林 バリバリ裏方。明日も、次のツアーの映像関係の確認をやるしね。
「環境や農業のこともいろいろあるけれど、法令や閉塞感に苛まされるよね」という話はよくするんだけれど、いろいろやってると、こう壁があるじゃない。
伊勢谷 ありますね。
小林 未来のことを考えると、どうしても煮詰まっちゃう。
僕らap bankも7年くらいやってるけど、そう簡単にパスは通っていかないし。
とにかくね、僕が(Mr.Childrenの)ステージの上で何を思ったかというと、メロディとか言葉は「出尽くしたな」と思っても、並び替えて、置き換えて、人間はずっと表現し続けてきたってことなんだよ。「もう無い」と思っても、明くる日に「あれ?」というものが生まれる。人類の二千何年かの積み重ねのうえに「これが今の感情だろ」というものが立ち上がってくる。
Mr.Childrenやap bankも、繰り返すことで寅さんみたいな感動が生まれてくるんだけど、それだけじゃなくて、コラージュしていくことが、今まで出会ってなかったものを結びつけていくと思うんだよね。
『BANDAGE』で描いている90年代のバンドシーンっていうのは、いろんなものが出てきて、出尽くしている時代でもあったわけ。
伊勢谷 はい。よくそう言われてますよね。
小林 かなり実験的な要素が出尽くしていて、それをああでもない、こうでもないってやっていた状況を、「バンド・エイジ」といってね、旗頭を掲げたんだけれど。
映画でエンディングにかける歌も僕が作ったの。その曲ができたから、「こういう映画だったらありえるかな」と思えて、それでこの映画に入っていくことになったんだけれど。
伊勢谷 映画のエンディング曲を先に作ったんですか?
小林 そうそう。
ガラス張りのプロセスを見せる
小林 話が脱線したけれど、つまり、閉塞感がある現実の中でも「繋いでいく」ということだよね。最近、農業関係の相談をよくするんだけれど、僕が彼らと仕事するときに大事にしたいのは、なによりもまず、「嘘はやめようよ」ということ。
「農業をどうやっていくのか」「何を作って行くのか」というのは、やっぱりすごく重要なんですよ。土の開墾や、どうやって育てていくかも大事だけれど、市場にどんなニーズがあって、どんなことをしていけばいいのかを忘れてはいけない。
伊勢谷 まさに需要と供給のはなしですよね。
小林 そう。だから僕は、全部をガラス張りにして正直にしていきたい。作る側、生産者と消費者とを繋いでいけば、循環というものが生まれてくると思うので。
伊勢谷 本当にそうです。 でも今は経済状況も含めて、ガラス張りにすることすら難しい社会だと思う。会社の原理では、消費者を騙すことも時には必要なのかもしれないけれど、偽装事件などを見ていると、消費者どころか内々まで騙していたりするじゃないですか。そこを開放的にすることで、いろいろなことが見えてくると思うんですけれど。
すみません、ちょっと話がずれましたね。
小林 いや、それが一番大事だよ。
まずは人に対して、自分がやりたいことに正直になるというのが基本だし。それをどこまでもやっていけば、たとえば僕と伊勢谷くんがこうやって話していても、繋がっていくんだよね。伊勢谷くんが、実はこっそり「俺はタンス預金で俺のお金を10倍にするんだ」みたいな気持ちを隠しもっていたら違うけれど(笑)。たぶん、そういう話じゃないじゃん(笑)。
伊勢谷 じゃないです(笑)。
小林 ものすごく単純なテーゼだけど、お金っていうのは道具でしかない。
伊勢谷 その考えは、今までの価値観からすると、受け入れるのが難しいですよね。普通の人たちにとって、「お金が道具」と思うのは、考え方が逆転することじゃないですか。
本来は物々交換の対象だったはずのもの(金)が、時間が経つに連れて欲求の対象となってきている。それでなんでもできる気になっているというか。そこに、精神的な問題がいろいろ生まれつつあるなと、僕は思っているんです。社会の結末として、資本主義も含めたさまざまな事柄が、拝金主義的な方向に向かっているというか。
伊勢谷友介
1976年、東京都生まれ。東京藝術大学美術学部 修士課程修了。大学在学中の1998年に「ワンダフルライフ」(是枝裕和監督)でデビュー。以後、映画、ドラマなどで幅広く活躍している。2002年には長編映画「カクト」で念願の監督業への進出も果たした。2008年からさまざまなジャンルで活動をおこなう、リバース・プロジェクトをスタート。志をともにするクリエイターとのプロジェクトを進めている。
リバース・プロジェクト
http://www.rebirth-project.jp/
(撮影/大城 亘 構成/編集部)