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小林武史 × 矢沢永吉

小林武史 × 矢沢永吉

5年目を迎えた、ap bank fes’09のシークレットゲストとして、圧倒的な存在感を示した、矢沢永吉さん。
新しいアルバム『ROCK'N'ROLL』をリリースし、驚くほどのパワーで走り続けている矢沢さんに、「ap bank fesでの矢沢さんは完璧だった」と語る小林武史が、待望のインタビューをしました。

updata:2009.09.25

第7回 「今月で60歳。60、悪くないな」

実は、矢沢さんは9月で60歳に。「昔は、嫌いなものは認めないという感じだったけど、今は違う。全部OKですよ。全部アリじゃない?と思いますね」だそう。「60、悪くないな」という発言もかっこいい、第7回目です。


小林 矢沢さんのアレンジは、基本的に引き算が活きていると思うんです。ゴチャゴチャするのは嫌いですよね、ボスは。もともと日本は引き算の文化だと思うんだけれど、アレンジについてはなかなか引き算ができなくて、ガーッとクラッシュするようにグチャッとなっちゃう。

若い子の音楽は、歪ませてグチャーッとひとつになるのが、今の主流だけど。矢沢さんはもっと、スタイリッシュで、ベースの音はエッジが立っていなくちゃいけない、というのがすごくある。それも矢沢さんの、独特の感じなんですよ。ミュージシャン同士の会話だから、ちょっとわかりにくいかもしれないけれ ど。ボーカルの周りに、あんまり来ないで、来るなら来るで、はっきりした感じで来て欲しいという感じがします。

矢沢 そうかもしれないですね。無意識なんだろうと思うけれど。
小林武史 × 矢沢永吉

小林 プレスリーや、ビートルズの初期もそうだけれど、ギターのリフって、はっきりしていたじゃないですか。ここはギターを聴かせるところ、というのがあって。
矢沢 それが、好きなんでしょうね。
でも、最近思うんですよ。昔の僕は「これが好き。だから、嫌いなものは認めない。だって、良くないもん」という感じだったけれど、今は違う。「僕はこれが好きなんだけれど、グァーッと絡ませている。いいね~、それもいいんじゃない」というのが。全部OKですよ。全部アリじゃない? と思いますね。何でかな? なんだかね、いい感じですよ。今月、60歳になるんですけれど、「60、悪くないな」と思い始めています。

小林 それは、誰だって矢沢さんを見たら「60歳も悪くないな」と思いますよ(笑)。

小林武史 × 矢沢永吉
矢沢 だから、すごく今、音楽が楽しいですね。俺、こんな感じで現役でやれてるんだな、と。僕も40歳くらいまでは、まだ「好きなものはこう、嫌いなものは嫌い」っていうのがありましたよ。それがまた、矢沢の個性でも、我の強さもあったんだろうけれど。いや、いいですね。変われてよかった、と思います。

小林 あえていろいろ言わないけれど、僕らは知的に見せる音楽の台頭という中で育ってきて、日本にもまだ先があると思ってきた。アジアの他の国々にもアドバンテージを持てて、優位性を感じて生きていたと思うんです。どこの国でも、人間は差別するところから成長するから、そういうこと抜きに綺麗ごとだけでは言えないけれど、今やアドバンテージもなくなってしまった。

今の若い子を見てると「何か足りないな」と、正直、思わなくはないけれど、矢沢永吉という人の良さを、真っ向から理解できる国民、というラインに立てたな、という言いかたもできると思います。

ところで僕も、ap bankで「これからは農業をやるんだ」と言っていまして。

矢沢 すごいよね。

小林 いやいや、でもね、いいと思いません?

矢沢 思いますね。
小林 左脳的なところでくじけたような男が、鬱になって自殺するよりは、もっと単純でいいから、男として食い扶持を稼ぐような方向があるんじゃないか。そう思うなら、社会がそういう流れにいかないと。真っ正直になれないで、最後のところで、上げ足だけを取っている国民、という体制は変わらないと思うんです。

矢沢 本当にそうなんだよね。そういうことが、今、問われてますよね。

小林 問われていますよ。正直にならなくてはいけない。

矢沢 今の話と一緒で、「芸能人の麻薬がどうのこうの」っていうのを、テレビも新聞もずっとやっているんだもんね。馬鹿みたい。でも、こういう会話をap bank fesの後に小林さんとやるとは思わなかったですね。
小林 したくてしょうがなかったんですよ。

矢沢 今回の話を聞いて、僕「やろうやろう!」「いいね! ぜひ対談したいね!」って言ったんですよ。

小林 僕は、何年も前から矢沢さんに出て欲しかったんですよ。未来のことを考えたら、今の矢沢さんのスタンスが、すごく大切だと思っていたので。

矢沢 いや~、こちらこそ、嬉しかったです。
矢沢永吉
矢沢永吉

1949年、広島県生まれ。1972年、キャロルのリーダーとしてデビュー。1975年、「アイ・ラヴ・ユー、OK」でソロデビュー。以来、日本のロックの頂点に立ち続ける。2009年8月、アルバム『ROCK’N’ROLL』をリリース。60歳記念ライヴ“ROCK'N'ROLL IN TOKYO DOME”では、5万人の観客を圧倒した。

(撮影/今津聡子 構成/エコレゾ ウェブ編集部)

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