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小林武史 × 矢沢永吉

小林武史 × 矢沢永吉

5年目を迎えた、ap bank fes’09のシークレットゲストとして、圧倒的な存在感を示した、矢沢永吉さん。
新しいアルバム『ROCK'N'ROLL』をリリースし、驚くほどのパワーで走り続けている矢沢さんに、「ap bank fesでの矢沢さんは完璧だった」と語る小林武史が、待望のインタビューをしました。

updata:2009.09.25

第4回 「『当たり前のことを言う矢沢』を求める時代」

雑誌の記事で「矢沢永吉は特別なことは何も言っていない」と表現されていたという、矢沢さんの話からスタート。「当たり前のことを言う矢沢が求められる時代。時代がおかしいんですよ」という、鋭い話題に発展しました。


矢沢 このあいだ、ある雑誌が面白いことを書いていましたよ。「矢沢永吉、僕は以前はあまり好きではなかった。だけど最近は、好きとか嫌いを超えて、面白いな、とすごく興味を持って見ています」と、書いてあったのね。
そのライターは、「矢沢永吉は、特別なことは何も言っていない。すごく当たり前のことを言っているだけなんだけれど、それが今の時代に心地いい」と続けていて。
確かに、僕は特別なことは何も言っていないんですよ。普通の当たり前のことを言っているだけなのね。だから、その記事を読んだときに、「言われてみたら、そうだな。僕、言いたいこと言っているし、当たり前のことを言っているだけなんだよね」と思って。
僕は、自分でも同じことを言っていたんですよ。そのときは、反応がなかったけれど。でも、そうした「当たり前のことを言う矢沢」を、みんながすごく面白いと言っているとしたら、今の時代のほうが良くないのかもしれない。時代がおかしいんですよ。
小林武史 × 矢沢永吉
小林武史 × 矢沢永吉

小林 そうなんです。今の日本では、「ちゃんと努力をしても報われない」という思いもあるから、「振り」をしなくちゃいけないことがたくさんある。矢沢さんは、当たり前のことを正直に、真っ当に言うから、注目される。
もちろん、それを支えている天性の資質があってのことなんだけれど、逆に、矢沢さんのような天性の才能を授かっていない人もたくさんいますよね。あるいは自分の居場所を見つけていない、若い人とか。
そういう人たちに、何を伝えるのかはなかなか難しいけれど、僕は最近、こんなふうに言うんです。かつて長嶋茂雄さんが言っていたように、「来た球を打て」と。当たり前のことだけれど、これは、真理だと思って。

矢沢 良い話ですね。
小林 「来た球を打つ」というのは、その球の芯を打つことだから。フォームなんかはどうでも良いんだ、と。いろんな球が来るし、そのときの状況も全部違う。でも、来た球を打てばいいんだ、というのはそこに集中して芯を打つという点で、変わらないから。

矢沢 そうかもしれないね。ところが今の話じゃないけど、やたらとフォームがどうした、とか精神力がどうした、だのやりすぎちゃったんだよね。

小林 2番バッターの打ち方は、こうでなくちゃいけない、とか。変な癖がついちゃって、「なんで流すことばっかりやってるんだよ」みたいなことになったり。

矢沢 「来た球を打つ」とか、当たり前のことを当たり前に言えたほうがいいかもね――というところをみんなが求めているのかもしれないね。

小林 求めているんですよ。以前は「賢いやりかたで時代を読むのがいい」とか、フェイクがいっぱいあって、みんな逆に迷っちゃった。そういう連中が「今のトレンドはなんだ」と言っていたときは、矢沢さんは「日本では生きにくいな」と感じたと思うし。

矢沢 そうだね。これだけ情報が有り余るほどあるからこそ、もう一度フラットになってもいいのかもしれない。本能の赴くままに、気持ちを大事にしようよ、とかね。
矢沢永吉
矢沢永吉

1949年、広島県生まれ。1972年、キャロルのリーダーとしてデビュー。1975年、「アイ・ラヴ・ユー、OK」でソロデビュー。以来、日本のロックの頂点に立ち続ける。2009年8月、アルバム『ROCK’N’ROLL』をリリース。60歳記念ライヴ“ROCK'N'ROLL IN TOKYO DOME”では、5万人の観客を圧倒した。

(撮影/今津聡子 構成/エコレゾ ウェブ編集部)

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