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小林武史 × 矢沢永吉
5年目を迎えた、ap bank fes’09のシークレットゲストとして、圧倒的な存在感を示した、矢沢永吉さん。
新しいアルバム『ROCK'N'ROLL』をリリースし、驚くほどのパワーで走り続けている矢沢さんに、「ap bank fesでの矢沢さんは完璧だった」と語る小林武史が、待望のインタビューをしました。
updata:2009.09.25
第3回 「時代が矢沢を欲しがっているのかもしれない」
新しいアルバムの『ROCK'N'ROLL』から、矢沢さんの音楽の原点の話になりました。30年前と変わっていないけれど、表現の仕方が変わっただけ。時代が矢沢さんに追いついて来た、そんな展開になりました。
小林 新しいアルバムを聴かせてもらって思ったのは、ビートルズやプレスリーの時代のような、ラブ ソングや男が包容力を持つために必要な、「自分はこうなんだ」というポジティブなスタンスを矢沢さんが持っているということです。声も含めてのすべてがそ うなんですが、矢沢さんのポジションをずっと保たせている、音楽の原点はあるんですか?
矢沢 ラジオで「矢沢さんの好きな音楽を流したいんだけれど、リクエストはありますか?」と 聞かれると「ものすごく古い曲なんだけれど、『砂に消えた涙』とか『悲しき片思い』とか、そういうのかけてくれませんか」と言うんです。それを聴くと、 ポップなラブソングで。僕、コニー・フランシスも大好きだし、そういう曲がいつの間にか、入っているんでしょうね。
小林 ビートルズが中期以前に解散したとしたら、キャロルみたいな流れでしたよね。こういう定義は、当然、されていると思うんですけれど。
矢沢 小林さん、もう、完璧。 僕は、ビートルズもああいうラブソングもポップも大好き。それは、ずっと自分のなかに残っているんですよ。そこに、矢沢の精神が加わったんじゃないですかね。
その精神は何かというと、さっき言った「欲しい! 欲しい!」という精神。言わなきゃいいんだけどね、「良いですね、ロックは」と言っていればいいんだけれど。「俺は上に行く!」と言っちゃうもんだから、「なに、こいつそればっかり言ってるんだ」と昔は思われたんですよ。
でも僕、思うんだけど、今、自己分析をするとしたら、二十幾つのときの、出た頃の矢沢は可愛いね。可愛いし、チャーミングだね。今の時代、逆に矢沢みたいな、「上に行く」「欲しい」「やったるわ」っていう人が、もっと増えてほしい。
それにこの年になると、あれは「上! 上!」と言っていたんじゃないと思う。とにかく、騒いでいたんだよね(笑)。「やるぞー! 頑張りたい!」と言っていたんだと思います。
このあいだ、NHKに出たときも、しゃべっている矢沢を見て「初めて矢沢を見たよ」という人にはどう見えたのかな、と思ったら、ものすごく好意的に受け止めているのね。
小林 そうでしょうね。
矢沢 面白かったんだけど、来るメールでも「前からもちろん知ってはいたけれど、初めて矢沢さんを見ました。テレビでゆっくりまじまじと見たら、思っていたイメージと違うんですね」と書いてあって、「変なこと言うな」と思ったの。
俺は、ほとんど三十年前と変わっていないんですよ。ただ、表現の仕方は変わった。「俺さ、欲しいんだよ」と言っていたのが「何かを"欲しい"ということは、言ったほうがいいと思うよ」となっているだけで、言っていることは変わらない。
「こんなにイメージが変わりました」というよりも、時代が矢沢みたいな人を欲しがっているのかもしれないです。だから僕にしてみれば、しゃべりかたのタッ チ感がちょっと変わったかもしれないけど、中身は何も変わっていないんだけどね。「なるほどね、人の受け取りかたは変わるもんだね」と。だから僕の自己分 析は、意外と間違っていないのかもしれない。
小林 間違っていないですよ。矢沢さんは、昔からすさまじい自己分析をしていたと思うし、このあいだのステー ジを見ていると、すさまじい努力もする。ものすごく真面目で細かくて、全部を見ながら、それで思いきりやる、という。きわめて当たり前のことを、すさまじ いパワーでやるんですね。
広告でもなんでも、矢沢さんの持っているもの――精神性も含めてすべてが、今の日本でどんぴしゃですもんね。たとえば矢沢さんがCMに出ている商品につい て、「矢沢さんのような思いで作っています」と言ったら、それはもうそのまんま、企業のメッセージになるんだと思います。そこには嘘がない。だから、みん なが矢沢さんを熱望するんじゃないでしょうか。
矢沢永吉
1949年、広島県生まれ。1972年、キャロルのリーダーとしてデビュー。1975年、「アイ・ラヴ・ユー、OK」でソロデビュー。以来、日本のロックの頂点に立ち続ける。2009年8月、アルバム『ROCK’N’ROLL』をリリース。60歳記念ライヴ“ROCK'N'ROLL IN TOKYO DOME”では、5万人の観客を圧倒した。
(撮影/今津聡子 構成/エコレゾ ウェブ編集部)