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小林武史 × 安藤忠雄
建築家の安藤忠雄さんと小林武史による対談、そのテーマは「農業」。
土に触れること、そして試行錯誤を繰り返し、植物を自分の手で育てること――。
これからの時代、そんな「実感できる場」として、若者が農業に参加することの意義を語り合いました。
updata:2009.06.29
第2回 「安藤忠雄×小林武史 身体で、心で感じて社会を変えていく」
建築家・安藤さんと小林の共通の思いは「実感すること」。農業は、いろいろな実感ができる場所でもあるようです。U2のボノの話も飛び出した、白熱した対談でした。
小林 田植えをさせてもらった石垣島の農家の方は、とにかく手で植えることを勧めてくれました。僕は、今回のap bank fesで使うための米を、ちゃんと植えたいと思ったので、手で植えてみたんです。最後は機械も使わせてもらいましたけども。
横道にそれますが、日本の田植機はすばらしいんですよ。正確で、何の問題もありません。でも、農家の方の勧めもあったので、まずは、手で植えたんですが、その手で植えた実感たるや、本当に深く残っていますね。
安藤 いや、そうだと思います。
小林 そして、次に感じたのは泥の気持ちよさ。泥の中に、苗が植えられ、育まれて、実をつけて......、植物が育っていく元のような場所だから、確かにそこに人間が手を触れてみたら気持ちいいというのは当たり前のことなのかもしれないですけれども。
安藤 自分で作ったものは、心から大切にしますよね。今、日本人は、毎日、すごい量の食べ物を捨てているでしょ う。もったいないとかいう気持ちが、日本の中になくなっています。
「お金があれば買えるでしょう」ではなく、お金があっても、ものを大切にする心を、自分 で一回感じてみたら、自然に身につくと思います。
だから、今、小林さんの世代の人たちが農業やってみようというのが、私は非常に重要だと感じました。
小林 経済が立ちゆかなくなって来ている今、逆にチャンスですよね。「うわ、これはたまんないわ、耐えられん」という人がだんだん増えてくると、もしかすると次に向かうときの、タイミングとして必要かもしれないなと思います。
ap bankが田植えをした石垣島の田んぼで、稲が成長していることを実感しました
安藤 これからの若い人たちは、目が輝くようにならないと。今の若い人たちは、自分たちが生きた軌跡がないか ら、目が輝かないんです。成績いいときだけは、目が輝くのか分かりませんが、それ以外は目が輝きませんからね。やっぱり生きた証があれば、輝きますよ。我 々としては、ずっとこういう話をしてきたけど、誰も相手にしてくれなかったんです。
小林 そうですね。実感がともなって何かやっていくことが強いと思います。ap bankを作ったときも、環境のことを理屈で分かっている人は少ないと思っていました。今でも、温暖化はCO2のせいだ、いやそうじゃないと侃々諤々(か んかんがくがく)です。そういう頭から入って来ることだけじゃなくて、身体が、心が感じられることをやっていくのが、社会や未来を変えていくと思います。 その点は、音楽がある僕らの強いところですけれども。
安藤 まず、一歩が大切ですよね。若い世代に対して影響力がある人が、若い人向けに発信をしてほしいですね。若い人こ そ生きている目標をもたなければいけない。日本人は、大学を卒業したら青春がなくなると言われているけど、目標があればずっと青春です。20代、30代は もちろん、40代、50代でもね。今、小林さんがやられているようなことをやろうとする、また、別の人が出てくるかもしれない。初めは、変わったことをし ていると見られるわけです(笑)。
小林 (笑)
安藤 だけど、「なぜ」を追求しようという姿勢がないじゃない、この国は。平和ですねえという感じで。今、「なぜ」の多くが、不景気になったから駄目、それでは面白くないと思います。
小林 絶対に若い人には、「なぜ」と問う、そのパワーが必要ですね。
本当に、安藤さん自体が、ロックなんですよね。
安藤 ロックなのかはわかりませんが(笑)。昨日もU2のボノさんから「6月のベニスの美術館のオープンに、ぜひ参加したい」と電話がありました。また、なにか二人でできたらいいなと思っています。ボノさんは、新しいCDを出したそうです。
小林 そうですよね。
安藤 それを送ってくれました。ボノさんは「二人で飲めたら面白いから、またやろう」と言うので、行ってもいいかなと思っているんですけど。そういう人がいっぱいいたらおもしろいですね。小林さんとボノさんが一緒にやっても面白いねえ。
小林 私もMTVアワードで会いましたけどね。ボノから賞をもらいました。
安藤 面白いね! あの人! 一緒にできたらいいのにね。今、小林さんが言われたように、地方でうまくいけば、東京だけでなく地方都市でも生きられるという、証にもなりますよね。
小林 そうですね。いや、ぜひ何か一緒にやりたいですね。行政とか、いろいろな人を巻き込んでやっていくときに、安藤さんは心強いですよ。
安藤 いやいや(笑)。建築はものとしては大きいですが、なかなか音楽のように心に伝わっていかない。視覚的なものは記憶に残りづらいですからね。やっぱり、音楽はすごいなと思います。
小林 確かに、同じ時代に聞いた人たち、ファンも、もちろんアーティストも一緒に歳をとります。そのアーティス トが成長したり、悩んだりしていることを、ファンは、ずっと見ています。また、その当時に聞いた曲を聞くと、フラッシュバックというか、複雑に、実感とい うものがいろいろなところから出てきますよね。
安藤忠雄
建築家。東京大学名誉教授。
1969年安藤忠雄設計事務所設立。
住宅、公共施設、商業施設など国内外の多くの建築を手がける。代表建築は大阪の「住吉の長屋」香川県直島町の「ベネッセハウス」東京の「表参道ヒルズ」など
(撮影/浅田政志)