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小林武史 × 野茂英雄

小林武史 × 野茂英雄

1996年に雑誌の対談で出会ってから、10年以上の付き合いになる二人。
野球と音楽との意外な共通点から、野茂さんも興味があるという農業についての話題まで、和やかな雰囲気のなかで友人同士ならではの本音トークが展開されました。

updata:2009.06.19

第2回 「野茂英雄×小林武史 負けたくない気持ちが、勝負を決める」

十年来の友人である二人。野球と音楽の意外な共通点で、盛り上がりました。いい試合をしたい、いい作品を残したいという真摯な姿勢は、どんな分野でも同じなようです。

小林 野茂君がアメリカに行くころは、まだ、日本の投手はメジャーリーガーの打者にビビッて球が真ん中に入っているのではと思うくらい、打たれていたんですよ。で、それに切り込んでいった最初の人が、野茂君ですよね。実際は、少しはメジャーリーガーにビビったりしたの?

野茂 なかったです。

小林 なかったんだ。

野茂 特に最初の年は、「いけるな」という感じでしたね。ドジャースでは、監督やチームメイトにも恵まれ、のびのびとやらせてもらえました。アメリカや日本で僕が経験したり、見てきた限りでは、個性が強い選手はここ一番に強いです。結果的に、負けたくない気持ちが強いから負けない。
小林 「負けたくない気持ちが強いからなかなか負けない」っていうのは面白いね。そういうものなのかもね。確かに音楽でも、やっぱり「ここは絶対にとらなくちゃいけない」というときにとりに行けるかどうかって出るかもね。特に若い頃には、コンペとかでも「負けたくない」と思うのは大事かもしれない。そこで何をやってもホワホワホワってやつは、なかなか難しい。

野茂 練習で言ったことを素直に聞いてくれるのはいいんですけど、ゲームを見ると「どうしてそうなるのか?」と いうようなピッチャーもいます。投げる球がしょぼかったら仕方がないんですけど、そこそこ狙いが外れても抑え込めるようなボールを持っているのに、打たれ てしまうこともあります。こっちは「もっといけるのに」と思うんですけど、そういうタイプは打たれ出すと止まらない。
小林武史 × 安藤忠雄
小林 そういうところに強さや負けん気が出てくるんだ。でも、野茂くんの投げ方って独特だったよね。素人目から見ても、いろいろな選手にお手本になる投げ方というのとは違ったと思うし、「もっとこうすればどうのこうの」って言うやつが出てきてもおかしくない気はするよね。
俺もプロデューサーだから分かるんだけど、フォームを万能な形に整えるのが必ずしもいいわけじゃないことはあるんだよ。その人自身の生命力って、やっぱり あると思うから。だから、監督とかプロデューサーって、自分が思うとおりにことを運べばいいというわけではないと、つくづく思うんだ。どこかで自分も遊び 心を持っていなくちゃならないし、相手とどう化学反応が起こるか見ながらやっていくっていうのは重要だと思う。

野茂 ただ、メジャーでも、僕が18歳の時にアメリカで1Aからやっていたら、絶対にフォームを直されていたとは言われましたね。

小林 へえー、そういうもんなんだね。
野茂 はい。マイナーに行ったときに言われたんですけど、向こうでもマイナーはやっぱり軍隊なんですよ。監督> コーチ>選手、なんですね。だからコーチは絶対で。コーチの持っている理論を押し付けられるというか。だからみんながみんな、同じフォームになってくる。 というのも、コーチも自分が持っている理論で雇われているわけだから、選手にそれを押し付けてくるんですね。

小林 そうなんだ。

野茂 だからアメリカも日本とまったく一緒ですよ。ただ、メジャーだけが違う。向こうの方が試合の経験をたくさん積めるとかはあるけど、教え方とか中の組織は本当に一緒です。
小林 経済などでも誤解されがちなんだけど、日本は会社主義でガチガチに組織的で、アメリカはもっと自由だと思 われがちだよね。でも、アメリカの方が軍隊主義みたいなことを徹底的に貫いている部分もある。利益主義を貫いているような企業では、上司の言ったことは絶 対服従だったりする。ボスには基本的に服従だからね。契約書もピシっとでてきたりとか。事細かに、理由付けもすごいから。
俺は、軍隊的な男の社会でいう と、効率とか合理性とかをあげてくために、ある程度、規律じゃないけど命令の伝達手段がしっかりしているのが嫌だとは思わないけどね。コンサートとか作っ ていくときの指示系統は重要だと思う。

野茂 アメリカのいい部分っていうのもありますよね。そういう部分もそうだし、ボランティアのような、人のためになる活動もすごく多いですし。

小林 そうだね。だいたい人間って若いころは自分自分だし、それが普通なんですよ。ただ今度、自分がある程度大人になって、お金を稼げるようになると、別の目線で色々なものを見られるようになるし、それが社会のあり方の中で循環していったりね。そういうことが普通 だと思う。例えば、アメリカは税制が、ボランティアや寄付みたいなことに対して、すごくひらかれていると思う。
それに比べて日本は、どこまでいっても疑ってかかっているように思う。寄付をしても税金とっていく仕組みだし。慈善だったり、いいことをしていくことが社会の基盤になっていかないとね。それはお上と一般みたいな、日本のお百姓文化が続いているんだと俺は思っているけどね。
野茂英雄
野茂英雄

1968年大阪府生まれ。1987年 新日鐵堺に入社。1990年 プロ野球近鉄バファローズ入団。1995年ロサンゼルス・ドジャース入団。その後、ニューヨーク・メッツ、ミルウォーキー・ブルワーズなどメジャーリーグ各球団に在籍。2008年7月、現役引退を表明。 NOMOベースボールクラブ理事長。

(撮影/浅田政志)

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